ゲーム作品
日曜のフェニックスランドは人が多い。「人気!って感じはあんまりしないよね」なんて友人は言ってたが嘘だろ、と思う。俺はできるかぎりの小走りで家族連れやカップルの合間を縫ってはぐれた弟を探していた。
弟とは年が離れていて、今年小学生になったばかりだ。興味のあるものを見つけると一目散というか、周りが何にも見えなくなるような性格なのでかなり警戒していた。しかし飲み物を買う一瞬の隙に奴はいなくなっていた。母さん父さんの顔が浮かぶ。二人とも忙しいから俺が連れていくよ、と自分から言い出したのだ。早く無事に見つけなければ。
どちらの方面に行ったのかもわからず、探しながらパンフレットを開いて迷子案内へ向かう。今日の弟はどんな服を着ていたっけか。
すると案内所の方面に人だかりができていた。道のど真ん中でやっているから邪魔だな、と思いながら近づき、横を通りすぎようとした。
「お兄ちゃん!!!」
しかし聞き覚えのある大声が人の山の中から聞こえた。俺は方向転換して他の客たちを掻き分け、中心に向かう。
弟は、誰かの大きな鞄の上に乗せられたノートPCを覗き込んでいたが、俺に気がつくとぱっと顔をあげた。
「兄ちゃん!」
「大丈夫か!」
俺は弟の前にしゃがみこむ。転んだりはしてないか、と確認したがどうやら無傷らしい。ほっ、と息を吐いたところでそういえばなんで人混みの中心にいたのかということに思い至る。
「無事にお兄さんと合流できて、よかったね」
柔らかな男の声が上から降ってきた。見上げると一方的に知っている顔があった。
「か、神代先輩」
それはうちの学校の変人ツートップのうちの一人だった。
「やぁ、君も神高生なのかな」
「は、はい」
いわゆるイケメンではあるのだろう。だが切れ長の瞳といい、やや大きい口といい、何を考えているか分からないところまで含めてなんとなく爬虫類に似た印象を受ける。そんなこの先輩が俺はなんとなく苦手だった。関わる機会もほとんどないから一方的なものだが。
ふうん、と相づちを打った彼は弟の横にしゃがんで、何やらPCを操作し始めた。固まっている俺に構わず、弟は興奮した口調で神代先輩に話しかける。
「お兄ちゃんありがとう! ドローンなんて初めて見た!」
「楽しんでもらえたかな!」
うん!と迷子になっていたはずの弟はうなずく。その言葉に神代先輩はふ、と笑ったように見えた。弟と話しているときは画面から目を離していることに気がつく。
上空からかすかなモーター音が聞こえてきて、見上げると弟が今まさに話題に上げたドローンが青空をバックに高度を下げてくるところだった。ほとんど音をたてずに地面に着地したそれを神代先輩は手に取り、いくつかのパーツを手際よく外し、軽く拭き取ったあと鞄から取り出したケースに収納した。その一部始終を食い入るように見ていた弟が俺に説明してくれる。
「お兄ちゃんがねえ、ドローンのカメラで兄ちゃんのこと探してくれたんだよ」
なるほどだから人だかりの向こうにいた俺を見つけられたのか、と納得する。今更ながら俺は彼に頭を下げた。
「ありがとうございます、先輩」
「気にしないで。ドローンのテストもできたしね」
「虹出してくれた!」
虹? 弟の発言に俺が首をかしげると、神代先輩が補足をしてくれた。
「ドローンに小型のスプリンクラーを搭載して、虹を狙ったタイミングでかけられるようにしたくてね。ほら、もうすぐ夏だから涼しげでいいだろう?」
たしかに水を撒くのだろうから涼しくていいだろうが、何に使うんだろう。ついそのまま疑問を口にした俺を馬鹿にすることもなく先輩は答えてくれる。
「次のショーに使うのさ」
今日の講演はこれからだから、ぜひ見に来てほしいな。そう彼は微笑んだ。正直話の通じない相手(悪い意味でなく、天才は凡人と話が通じないだろうという敬遠や畏怖がほとんどだ)だと思っていた相手と普通に会話をしている。それにこの人もこんなに嬉しそうな顔をするのか。目の前にいる神代先輩は宇宙人でも爬虫類でもなく人間だった。
彼は鞄からクリアファイルを取り出し、丁寧な手つきで俺と弟に一枚ずつビラをくれた。講演場所のワンダーステージは入り口近くのここからは遠いが、まだ開演時間まではしばらくある。何より弟がきらきらした目でビラに書かれている言葉を一文字ずつ音読しているのだ。行かないわけにはいくまい。
「行きます!」
返事した声は思った以上に元気に響いた。まだ時間はあるが、改めてステージの場所を確認しておこうとビラに目を落とす。すると出演者のところに目の前の先輩の名前があった。
「先輩も出るんですね」
「意外かい?」
いえあのそんなことは、と焦ったが別に彼の中で失礼にはあたらなかったらしい。俺は素直に「演出とかじゃないんですか」と訊いた。
「演出もやるよ?」
「すげえ!」
弟の目がさらに輝きを増す。今の大声で道行く何人かが振り返った。俺は弟に声量を落とすようつっつくが弟も神代先輩もとくに気にした様子はない。
「僕らは少数精鋭だからね」
「せーえー?」
「人数は少ないけど皆優秀ってことさ」
かっけぇ、とまた弟が叫ぶ。すっかり神代先輩に夢中だ。弟はまだ先輩と話したいようだったが、ステージの準備もあるだろう。昼食べに行こう、と弟に話しかける。名残惜しそうではあったが空腹が勝ったらしい。
「お兄ちゃん、あとでね!」
神代先輩はにこやかに弟へ手を振り返す。そういえば神代先輩と誰かが話しているところも俺はほとんど見たことがなかった。けれど「僕ら」と言う先輩の口調は、友だちの自慢をする弟のそれに似て、楽しさと嬉しさと誇らしさに溢れているように聞こえた。
弟とは年が離れていて、今年小学生になったばかりだ。興味のあるものを見つけると一目散というか、周りが何にも見えなくなるような性格なのでかなり警戒していた。しかし飲み物を買う一瞬の隙に奴はいなくなっていた。母さん父さんの顔が浮かぶ。二人とも忙しいから俺が連れていくよ、と自分から言い出したのだ。早く無事に見つけなければ。
どちらの方面に行ったのかもわからず、探しながらパンフレットを開いて迷子案内へ向かう。今日の弟はどんな服を着ていたっけか。
すると案内所の方面に人だかりができていた。道のど真ん中でやっているから邪魔だな、と思いながら近づき、横を通りすぎようとした。
「お兄ちゃん!!!」
しかし聞き覚えのある大声が人の山の中から聞こえた。俺は方向転換して他の客たちを掻き分け、中心に向かう。
弟は、誰かの大きな鞄の上に乗せられたノートPCを覗き込んでいたが、俺に気がつくとぱっと顔をあげた。
「兄ちゃん!」
「大丈夫か!」
俺は弟の前にしゃがみこむ。転んだりはしてないか、と確認したがどうやら無傷らしい。ほっ、と息を吐いたところでそういえばなんで人混みの中心にいたのかということに思い至る。
「無事にお兄さんと合流できて、よかったね」
柔らかな男の声が上から降ってきた。見上げると一方的に知っている顔があった。
「か、神代先輩」
それはうちの学校の変人ツートップのうちの一人だった。
「やぁ、君も神高生なのかな」
「は、はい」
いわゆるイケメンではあるのだろう。だが切れ長の瞳といい、やや大きい口といい、何を考えているか分からないところまで含めてなんとなく爬虫類に似た印象を受ける。そんなこの先輩が俺はなんとなく苦手だった。関わる機会もほとんどないから一方的なものだが。
ふうん、と相づちを打った彼は弟の横にしゃがんで、何やらPCを操作し始めた。固まっている俺に構わず、弟は興奮した口調で神代先輩に話しかける。
「お兄ちゃんありがとう! ドローンなんて初めて見た!」
「楽しんでもらえたかな!」
うん!と迷子になっていたはずの弟はうなずく。その言葉に神代先輩はふ、と笑ったように見えた。弟と話しているときは画面から目を離していることに気がつく。
上空からかすかなモーター音が聞こえてきて、見上げると弟が今まさに話題に上げたドローンが青空をバックに高度を下げてくるところだった。ほとんど音をたてずに地面に着地したそれを神代先輩は手に取り、いくつかのパーツを手際よく外し、軽く拭き取ったあと鞄から取り出したケースに収納した。その一部始終を食い入るように見ていた弟が俺に説明してくれる。
「お兄ちゃんがねえ、ドローンのカメラで兄ちゃんのこと探してくれたんだよ」
なるほどだから人だかりの向こうにいた俺を見つけられたのか、と納得する。今更ながら俺は彼に頭を下げた。
「ありがとうございます、先輩」
「気にしないで。ドローンのテストもできたしね」
「虹出してくれた!」
虹? 弟の発言に俺が首をかしげると、神代先輩が補足をしてくれた。
「ドローンに小型のスプリンクラーを搭載して、虹を狙ったタイミングでかけられるようにしたくてね。ほら、もうすぐ夏だから涼しげでいいだろう?」
たしかに水を撒くのだろうから涼しくていいだろうが、何に使うんだろう。ついそのまま疑問を口にした俺を馬鹿にすることもなく先輩は答えてくれる。
「次のショーに使うのさ」
今日の講演はこれからだから、ぜひ見に来てほしいな。そう彼は微笑んだ。正直話の通じない相手(悪い意味でなく、天才は凡人と話が通じないだろうという敬遠や畏怖がほとんどだ)だと思っていた相手と普通に会話をしている。それにこの人もこんなに嬉しそうな顔をするのか。目の前にいる神代先輩は宇宙人でも爬虫類でもなく人間だった。
彼は鞄からクリアファイルを取り出し、丁寧な手つきで俺と弟に一枚ずつビラをくれた。講演場所のワンダーステージは入り口近くのここからは遠いが、まだ開演時間まではしばらくある。何より弟がきらきらした目でビラに書かれている言葉を一文字ずつ音読しているのだ。行かないわけにはいくまい。
「行きます!」
返事した声は思った以上に元気に響いた。まだ時間はあるが、改めてステージの場所を確認しておこうとビラに目を落とす。すると出演者のところに目の前の先輩の名前があった。
「先輩も出るんですね」
「意外かい?」
いえあのそんなことは、と焦ったが別に彼の中で失礼にはあたらなかったらしい。俺は素直に「演出とかじゃないんですか」と訊いた。
「演出もやるよ?」
「すげえ!」
弟の目がさらに輝きを増す。今の大声で道行く何人かが振り返った。俺は弟に声量を落とすようつっつくが弟も神代先輩もとくに気にした様子はない。
「僕らは少数精鋭だからね」
「せーえー?」
「人数は少ないけど皆優秀ってことさ」
かっけぇ、とまた弟が叫ぶ。すっかり神代先輩に夢中だ。弟はまだ先輩と話したいようだったが、ステージの準備もあるだろう。昼食べに行こう、と弟に話しかける。名残惜しそうではあったが空腹が勝ったらしい。
「お兄ちゃん、あとでね!」
神代先輩はにこやかに弟へ手を振り返す。そういえば神代先輩と誰かが話しているところも俺はほとんど見たことがなかった。けれど「僕ら」と言う先輩の口調は、友だちの自慢をする弟のそれに似て、楽しさと嬉しさと誇らしさに溢れているように聞こえた。
