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うちの母親のS.E.M嫌いはちょっとヤバい。毎週見てるバラエティもS.E.Mがゲストの回は絶対見ないし、何となく流してる番組でもS.E.Mが出てると消すかチャンネルを変えてしまう。Jupiterとか他のアイドルにはそういうことをしない。特にリーダーの硲道夫が嫌らしい。
「いきなり先生やめてアイドルなんて、無責任な」
そう顔をしかめてるところは何度も見た。父さんは特に男アイドルに興味ない。JupiterとかBeitにははしゃぐ姉ちゃんも、S.E.Mには別に何も言わない。同じ事務所のアイドルなのに。
「ねぇ、なんで母さんはあんなにS.E.Mアンチなのか知ってる?」
姉ちゃんの部屋に漫画を漁りに来たついでに訊いてみると、呆れた声が返ってきた。
「この時期聞きたいことがそれ?」
たしかに今は高校二年の六月だから、そろそろ進路とか具体的に考えろって話は学校で死ぬほど聞かされる。友達にもあんたのとこは姉ちゃん大学生でしょ?色々聞けそうでいいなぁ、と羨ましがられた。でも大学受験よりも来週からの修学旅行のほうがぶっちゃけ身近に迫る大事なことだし、今この瞬間の関心事項としては母親がなんであんなS.E.Mもとい硲道夫を嫌いなのかということだ。
なぜそんなことを気にし始めたかというと、修学旅行から帰ってきた翌週の7月あたま、好きな漫画の実写映画が公開されるからである。その主演が硲道夫なのだ。どうしても見に行きたいけどおかーさんにバレたら絶対面倒くさい。そのあたりうまくやるために情報を集めたかったのだ。姉ちゃんはキーボードを打つ手を止め、こっちを向いた。
「多分ねえ、あたしの担任だったからだと思う。高二のときの」
「えっ姉ちゃんの学校にS.E.Mいたの?」
「いたよ。Jupiter来た文化祭はあんたも見にきたでしょ。あん時に道夫もじろーちゃん先生も舞田先生もいたよ。なんならおかーさんと道夫話してたよ」
あんまりピンと来ないのは彼らのことを全然知らないからだ。というか姉の担任なんて知らん。全然覚えてない。まず高校違うし。
「おかーさん、道夫のことすごい気に入ってたからね。やっとしっかりした先生に当たったわ~、って」
そういえば姉はやたらと新任の教師に担当されがちだった。成績も素行も悪くない、あまり手のかからない生徒だったんだろう。それでも言っちゃ悪いけどめちゃめちゃできる奴ではなかったので、もっとしっかり見てほしいと母親が嘆いていたのは知っている。というか私も嘆かれている。姉妹揃ってごめんな。大学に入ってから茶色く染めた髪をいじりながら姉は苦笑する。
「あの人は多分、道夫が高三も担任してくれるってアテにしてたんだよね。だから裏切られた気分なんじゃない。自分の生徒を見捨てて何がアイドルだー、って。あたしは道夫すごいと思ったけどね」
大学受験あたりから、姉ちゃんは母親のことを時々あの人と呼ぶようになった。喧嘩らしい喧嘩をしているところは見てないけど、高三で無理矢理姉が文系に進路変更したことは知っている。
「そもそも進路も上田先生に見てもらってたし。まぁ上田先生に繋いでくれたのは道夫だからそこは感謝してるけど」
おかーさんの逆恨みじゃん、と言ったら大体そう、と姉は苦笑した。
「道夫のラジオ面白いから聞いてみ。こんな面白いことしゃべれるんなら授業中もやってくれれば寝ずにすんだのに」
何曜日?と聞いたら水曜22時とかえってきた。
「来週修学旅行だから無理じゃん」
「再来週のやつ聞けばいいじゃん」
修学旅行から帰って来て翌日土曜日である。思ったより疲れている体をひきずって映画館に来た。本当なら昨日公開日だったから昨日観たかったのだ。
その物語は、落ちこぼれの魔法使いが主人公だ。その主人公が「自分みたいな奴でも使える魔法を増やすんだ」という信念を胸に辞書を作ろうと世界を巡るストーリーだ。硲道夫はその主人公の役。服装もみずぼらしくて、その上ちょっと気難しいところがある。最初は中々ぱっとしない主人公だ。アイドルがそんな役やっていいのかと思ったけど違和感はなかった。
いいじゃん、とスクリーンに大写しになったしかめっ面を眺めながら思う。
コミックスでいうところの三巻、国立図書館の館長に向かって啖呵を切るシーンが映画のクライマックスだった。だん、と主人公は机を拳でたたく。
「次の世代に何かを残したいということの、何がそんなにいけないことなんだ」
その声と視線はシアター中にまっすぐ通った。不器用で、頑固で、自分がやるべきだと思ったことを為すために故郷を飛び出した主人公。硲道夫が演じてくれて良かった。演技が超うまかったら分からないけど、きっとその顔で教壇に立っていたんだろう。自分の担任だったらちょっと怖いかもしれないけど。でも、彼が教員を辞めたから、自分は硲道夫に出会ったのだ。
うちの母親のS.E.M嫌いはちょっとヤバい。毎週見てるバラエティもS.E.Mがゲストの回は絶対見ないし、何となく流してる番組でもS.E.Mが出てると消すかチャンネルを変えてしまう。Jupiterとか他のアイドルにはそういうことをしない。特にリーダーの硲道夫が嫌らしい。
「いきなり先生やめてアイドルなんて、無責任な」
そう顔をしかめてるところは何度も見た。父さんは特に男アイドルに興味ない。JupiterとかBeitにははしゃぐ姉ちゃんも、S.E.Mには別に何も言わない。同じ事務所のアイドルなのに。
「ねぇ、なんで母さんはあんなにS.E.Mアンチなのか知ってる?」
姉ちゃんの部屋に漫画を漁りに来たついでに訊いてみると、呆れた声が返ってきた。
「この時期聞きたいことがそれ?」
たしかに今は高校二年の六月だから、そろそろ進路とか具体的に考えろって話は学校で死ぬほど聞かされる。友達にもあんたのとこは姉ちゃん大学生でしょ?色々聞けそうでいいなぁ、と羨ましがられた。でも大学受験よりも来週からの修学旅行のほうがぶっちゃけ身近に迫る大事なことだし、今この瞬間の関心事項としては母親がなんであんなS.E.Mもとい硲道夫を嫌いなのかということだ。
なぜそんなことを気にし始めたかというと、修学旅行から帰ってきた翌週の7月あたま、好きな漫画の実写映画が公開されるからである。その主演が硲道夫なのだ。どうしても見に行きたいけどおかーさんにバレたら絶対面倒くさい。そのあたりうまくやるために情報を集めたかったのだ。姉ちゃんはキーボードを打つ手を止め、こっちを向いた。
「多分ねえ、あたしの担任だったからだと思う。高二のときの」
「えっ姉ちゃんの学校にS.E.Mいたの?」
「いたよ。Jupiter来た文化祭はあんたも見にきたでしょ。あん時に道夫もじろーちゃん先生も舞田先生もいたよ。なんならおかーさんと道夫話してたよ」
あんまりピンと来ないのは彼らのことを全然知らないからだ。というか姉の担任なんて知らん。全然覚えてない。まず高校違うし。
「おかーさん、道夫のことすごい気に入ってたからね。やっとしっかりした先生に当たったわ~、って」
そういえば姉はやたらと新任の教師に担当されがちだった。成績も素行も悪くない、あまり手のかからない生徒だったんだろう。それでも言っちゃ悪いけどめちゃめちゃできる奴ではなかったので、もっとしっかり見てほしいと母親が嘆いていたのは知っている。というか私も嘆かれている。姉妹揃ってごめんな。大学に入ってから茶色く染めた髪をいじりながら姉は苦笑する。
「あの人は多分、道夫が高三も担任してくれるってアテにしてたんだよね。だから裏切られた気分なんじゃない。自分の生徒を見捨てて何がアイドルだー、って。あたしは道夫すごいと思ったけどね」
大学受験あたりから、姉ちゃんは母親のことを時々あの人と呼ぶようになった。喧嘩らしい喧嘩をしているところは見てないけど、高三で無理矢理姉が文系に進路変更したことは知っている。
「そもそも進路も上田先生に見てもらってたし。まぁ上田先生に繋いでくれたのは道夫だからそこは感謝してるけど」
おかーさんの逆恨みじゃん、と言ったら大体そう、と姉は苦笑した。
「道夫のラジオ面白いから聞いてみ。こんな面白いことしゃべれるんなら授業中もやってくれれば寝ずにすんだのに」
何曜日?と聞いたら水曜22時とかえってきた。
「来週修学旅行だから無理じゃん」
「再来週のやつ聞けばいいじゃん」
修学旅行から帰って来て翌日土曜日である。思ったより疲れている体をひきずって映画館に来た。本当なら昨日公開日だったから昨日観たかったのだ。
その物語は、落ちこぼれの魔法使いが主人公だ。その主人公が「自分みたいな奴でも使える魔法を増やすんだ」という信念を胸に辞書を作ろうと世界を巡るストーリーだ。硲道夫はその主人公の役。服装もみずぼらしくて、その上ちょっと気難しいところがある。最初は中々ぱっとしない主人公だ。アイドルがそんな役やっていいのかと思ったけど違和感はなかった。
いいじゃん、とスクリーンに大写しになったしかめっ面を眺めながら思う。
コミックスでいうところの三巻、国立図書館の館長に向かって啖呵を切るシーンが映画のクライマックスだった。だん、と主人公は机を拳でたたく。
「次の世代に何かを残したいということの、何がそんなにいけないことなんだ」
その声と視線はシアター中にまっすぐ通った。不器用で、頑固で、自分がやるべきだと思ったことを為すために故郷を飛び出した主人公。硲道夫が演じてくれて良かった。演技が超うまかったら分からないけど、きっとその顔で教壇に立っていたんだろう。自分の担任だったらちょっと怖いかもしれないけど。でも、彼が教員を辞めたから、自分は硲道夫に出会ったのだ。
