引いた線を消す

サテツさんと食事に行くこと数回目、今回は焼き肉の食べ放題に来ている。しかしサテツさんの箸はいつもよりのろい。
「そこ、焼けてますよ」
サテツさん側の網に乗った肉を彼の皿にのせると、お礼を言って彼がそれを口に運ぶ。そして網に肉を乗せ、肉が焼けるのを見ながら何かを考えている。見てるはずなのに肉が焼けても反応がないので私がひっくり返したり皿にのせたりしている。別にそれはそれで面白いのだが、何がそんなに気になってるのだろうか。
「最近どうです、って聞こうと思いましたけど一昨日もお会いしましたよね」
「えっ、あぁ、ソウデスネ」
 最近は迷惑行為をしている吸血鬼を見かけたら、ギルドに連絡してから注意しに行くようにしているのだが、ほぼサテツさんが来る。プライベートで手間をとらせたくないからギルドに連絡しているのに意味ないのでは?とも思うがまぁ彼が来られるタイミングで仕事を依頼しているだけの話だろう。それに会えることそれ自体は嬉しいし。
「ギルドに依頼するといつも来てくださいますけど、忙しくさせてたらごめんなさい」
「いやそんなこと気にしないでください!むしろ、あの、」
何か言いあぐねているが、また皿に肉をのせたら口に運んだ。面白い。
彼は肉をよく噛んで、飲み込んで、私に向き直った。
「ギルドのマスターがあなたからの依頼を俺に回してくれてるんです。俺があなたを守りたいので」
 サテツさんが今日飲んでるのはウーロン茶だった。私も黒ウーロン茶しか飲んでないので、個室の方から「サテツよく言った!」みたいな声と拍手が漏れているのが聞き取れた。耳まで真っ赤にしているサテツさんは気付いていないようだ。
「なぜ守りたいのか聞くのは、意地悪ですかね」
今自分の顔が熱いのは、炭火がそこにあるからじゃない。サテツさんはぐ、とウーロン茶をあおった。
「す、好きだからです」
 私は焦げ始めたピーマンを自分の皿にとり、奇跡的な焼き加減の肉を彼の皿にのせた。
「ありがとうございます、私もサテツさんが好きです」
 声は震えていなかっただろうか。ちゃんと聞こえていただろうか。あっちの個室から拍手とか歓声とかその他もろもろが響いてきたので声量は問題ないはずだ(店員さんが注意しに行ったのが見えた)
あの、と何か言いかけたサテツさんの言葉に「これからお付き合いよろしくお願いします」とかぶせてしまった。サテツさんは私をきっかり三秒だけまっすぐ見つめて、でもすぐに顔を伏せた。ただ、「こちらこそよろしくお願いします」の声についてははっきり聞こえた。
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