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帰り道、駅前の自転車置き場にグールがいた。自転車を倒して遊んでいるようだ。使役している吸血鬼の姿を探す。若い男性の姿をした彼は、役所にもよく苦情が入っている吸血鬼マナー違反だ。
「自転車置き場を荒らすのはやめてください」
グールと自転車の間に立ちふさがり、街路樹に登っているマナー違反を見上げる。
「あと街路樹からも降りてください。危ないですし木が傷むので」
「俺は平気~」
噛み合ってるんだかいないんだかの返答が返ってきたので、もう一度同じ言葉を繰り返す。自転車を倒し終えたグールが私のまわりに集まってきた。
「お姉さん吸対でも退治人でもないのに真面目でうざいね」
グールはせいぜい私の腰までの大きさしかないのに、見た目よりも強い力で私をつきとばす。おろしたばかりのパンプスだったのが災いした。バランスを崩して足首が嫌な方向にまがる。
「危ない!」
倒れた自転車に突っ込むはずだった私を受け止めたのはサテツさんだった。どこから走ってきたのか息がきれている。サテツさんは私を支えたまま、マナー違反をぎろりと睨み付ける。
「女子供に手ェ出すんじゃねえって言ったよなあ?」
「ヒエッごめんなさいサテツの兄ィ!」
マナー違反は街路樹から飛び降りると、脱兎のごとく逃げ去って行った。倒しっぱなしの自転車を直さねばと思ったところで、サテツさんに支えられたままであることに気が付いた。この人怒れるんだな。
「ありがとうございます、もう大丈夫です」
痛む足首を意識しないように、倒れた自転車を戻そうとする。しかしサテツさんに俺がやります、と奪われた。
「二人でやった方が早いですよ」
「さっき足首ひねったでしょう。悪さしてる吸血鬼見かけたら、お、俺にちゃんと連絡してください」
私を車止めに座らせて、サテツさんはてきぱきと自転車置き場を復旧しながらそう言った。後ろを向いているから表情は見えない。一般人が吸血鬼に危害を加えられていたら、そりゃ退治人としては穏やかでないだろう。
「今度からは、ちゃんとギルドに連絡します」
「いやあの、」
「だってサテツさんが今日みたいにプライベートだったら申し訳ないです」
ぎりぎり友人と言い張れなくもない距離の彼にそこまで厚かましくなれない。心配はありがたいけど。
じゃあせめて、とサテツさんは駅の改札までの数十メートルを送ってくれ、自分用に買ったであろうテーピングをくれた。たぶん買い出しの途中だったのだろう。悪いことをした。でも、不謹慎だけど、サテツさんが助けてくれて、怒ってくれたことは嬉しかったのだ。
「自転車置き場を荒らすのはやめてください」
グールと自転車の間に立ちふさがり、街路樹に登っているマナー違反を見上げる。
「あと街路樹からも降りてください。危ないですし木が傷むので」
「俺は平気~」
噛み合ってるんだかいないんだかの返答が返ってきたので、もう一度同じ言葉を繰り返す。自転車を倒し終えたグールが私のまわりに集まってきた。
「お姉さん吸対でも退治人でもないのに真面目でうざいね」
グールはせいぜい私の腰までの大きさしかないのに、見た目よりも強い力で私をつきとばす。おろしたばかりのパンプスだったのが災いした。バランスを崩して足首が嫌な方向にまがる。
「危ない!」
倒れた自転車に突っ込むはずだった私を受け止めたのはサテツさんだった。どこから走ってきたのか息がきれている。サテツさんは私を支えたまま、マナー違反をぎろりと睨み付ける。
「女子供に手ェ出すんじゃねえって言ったよなあ?」
「ヒエッごめんなさいサテツの兄ィ!」
マナー違反は街路樹から飛び降りると、脱兎のごとく逃げ去って行った。倒しっぱなしの自転車を直さねばと思ったところで、サテツさんに支えられたままであることに気が付いた。この人怒れるんだな。
「ありがとうございます、もう大丈夫です」
痛む足首を意識しないように、倒れた自転車を戻そうとする。しかしサテツさんに俺がやります、と奪われた。
「二人でやった方が早いですよ」
「さっき足首ひねったでしょう。悪さしてる吸血鬼見かけたら、お、俺にちゃんと連絡してください」
私を車止めに座らせて、サテツさんはてきぱきと自転車置き場を復旧しながらそう言った。後ろを向いているから表情は見えない。一般人が吸血鬼に危害を加えられていたら、そりゃ退治人としては穏やかでないだろう。
「今度からは、ちゃんとギルドに連絡します」
「いやあの、」
「だってサテツさんが今日みたいにプライベートだったら申し訳ないです」
ぎりぎり友人と言い張れなくもない距離の彼にそこまで厚かましくなれない。心配はありがたいけど。
じゃあせめて、とサテツさんは駅の改札までの数十メートルを送ってくれ、自分用に買ったであろうテーピングをくれた。たぶん買い出しの途中だったのだろう。悪いことをした。でも、不謹慎だけど、サテツさんが助けてくれて、怒ってくれたことは嬉しかったのだ。
