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実際サテツさんは食べられないものなどないようだった。それならバイキングなどいいのではないかと思ったが、それを提案してから半日くらい間をおいて、「ほとんど出禁になってるんです……」と返事が来たのでやめた。それまではそこそこのペースでメッセージが返ってきていたので、その半日に彼の葛藤を感じる。出禁といってもマナー違反とかではなく純粋に食べ過ぎたんだろうな、と思えるのは彼の人柄かもしれないし私のバイアスかもしれない。しかし思った以上に食べるようだ。焼き肉の食べ放題ならばとも考えたが(焼くならまだバイキングよりラグがあるだろうという考えである)、はじめて食事に行く相手といきなり焼き肉というのも気を遣いはしないかと思い提案するのをやめた。
というわけでベトナム料理屋である。友人も家族も香草が嫌いな人間が多いため誰かと行く機会がなかったのだ。それなら一人で行けばいいのだが、私が好きな生春巻は見た目よりもボリュームがある。本当は何種類か食べ比べたいしフォーも食べたい。あと空心菜炒めたやつとか。というわけで下心よりも食欲が勝ったような店のチョイスになってしまったがサテツさんは快諾してくれた。
「割り勘でいきましょう。生春巻色々食べたいんですけど食べられます?」
「えっいや絶対俺の方がたくさん食べるんで割り勘だと申し訳ないですよ」
「誘ったのも店の指定もこちらなんですから。お金ちゃんと出させてください」
そうきっぱり言い切ると彼はまだ何か言いたげだったが引き下がった。つくづく押しに弱い。無駄に威圧しないように気を付けねばと思う。
「お金出した方がこちらの気が楽なんですよ。というわけで生春巻全種類制覇、手伝ってもらっていいですか。私たぶん一つずつくらいしか食べられないんですが、それを踏まえてもし食べきれなさそうなら言ってください」
「食べきれない……?」
「知らない言葉を聞いたみたいになってますね」
それならいいか、と店員さんを呼んで注文する。サテツさんもメニューを見ながら何品も頼んだ。
テーブルに乗り切るのだろうかと思ったが案の定無理だったらしく、とりあえず食べた端から皿が下げられて次の料理が運ばれてくる。サテツさんは生春巻を一口で頬張って、一定のペースでよく噛んで食べている。私はとっくにお腹いっぱいになったので甘い酒をちびちび飲んでいる。サテツさんは酒よりもやはり料理なのだろう。居酒屋よりもこっちの方で正解だったらしい。
皿があらかた空になったところで、サテツさんがこちらに視線を向けた。
「すいません、俺、食ってばっかで、何かお話もできずに」
「いいんですよ、見ていて爽快になるほどの食べっぷりですし」
サテツさんははぁ、と困惑したように頬をかく。アームのはまっていない左手には箸を持ったままだ。
「私、いっぱい食べる人を見るのが好きなんですよね。この前もサテツさん、カレーの超大盛り食べてたでしょう」
「あそこのカレーおいしいんで、いくらでも食べられますね」
婉曲な言い方をしたのはまだ何も始まっていないからだ。彼は優しくて押しに弱いけど何も始めたくないならちゃんと逃げてほしいと思った。
というわけでベトナム料理屋である。友人も家族も香草が嫌いな人間が多いため誰かと行く機会がなかったのだ。それなら一人で行けばいいのだが、私が好きな生春巻は見た目よりもボリュームがある。本当は何種類か食べ比べたいしフォーも食べたい。あと空心菜炒めたやつとか。というわけで下心よりも食欲が勝ったような店のチョイスになってしまったがサテツさんは快諾してくれた。
「割り勘でいきましょう。生春巻色々食べたいんですけど食べられます?」
「えっいや絶対俺の方がたくさん食べるんで割り勘だと申し訳ないですよ」
「誘ったのも店の指定もこちらなんですから。お金ちゃんと出させてください」
そうきっぱり言い切ると彼はまだ何か言いたげだったが引き下がった。つくづく押しに弱い。無駄に威圧しないように気を付けねばと思う。
「お金出した方がこちらの気が楽なんですよ。というわけで生春巻全種類制覇、手伝ってもらっていいですか。私たぶん一つずつくらいしか食べられないんですが、それを踏まえてもし食べきれなさそうなら言ってください」
「食べきれない……?」
「知らない言葉を聞いたみたいになってますね」
それならいいか、と店員さんを呼んで注文する。サテツさんもメニューを見ながら何品も頼んだ。
テーブルに乗り切るのだろうかと思ったが案の定無理だったらしく、とりあえず食べた端から皿が下げられて次の料理が運ばれてくる。サテツさんは生春巻を一口で頬張って、一定のペースでよく噛んで食べている。私はとっくにお腹いっぱいになったので甘い酒をちびちび飲んでいる。サテツさんは酒よりもやはり料理なのだろう。居酒屋よりもこっちの方で正解だったらしい。
皿があらかた空になったところで、サテツさんがこちらに視線を向けた。
「すいません、俺、食ってばっかで、何かお話もできずに」
「いいんですよ、見ていて爽快になるほどの食べっぷりですし」
サテツさんははぁ、と困惑したように頬をかく。アームのはまっていない左手には箸を持ったままだ。
「私、いっぱい食べる人を見るのが好きなんですよね。この前もサテツさん、カレーの超大盛り食べてたでしょう」
「あそこのカレーおいしいんで、いくらでも食べられますね」
婉曲な言い方をしたのはまだ何も始まっていないからだ。彼は優しくて押しに弱いけど何も始めたくないならちゃんと逃げてほしいと思った。
