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日中は暖かいこともあるが、日が沈むとまだまだ冷え込む二月十四日、シンヨコの夜は今日もにぎやかだった。
「俺の名前は吸血鬼非リア王! 愚民どもは俺様にチョコレートを献上しろ!」
「チョコが集まればモテるってわけじゃないある」
「言葉の刃!」
エーン悪いか! いいんだよとにかく今日誰かが用意したチョコが手元にあれば!と少年の見た目をした吸血鬼は叫ぶ。その間も念動力で通りがかった人間からチョコレートを集めている彼に退治人たちは立ち向かう。のだが、ロナルドとショットは遠い目になる。ちょっと分かる、と思ったのだ。動きが鈍った二人をサテツはいぶかしく思って声をかける。
「どうした、大丈夫か」
「ううううるせー!! どうせ今日このあと彼女からチョコもらうんだろ!」
「待ち合わせとかしてんだろ!」
図星を刺され、サテツは狼狽する。その様子を見た吸血鬼は高笑いした。
「仲間割れか? どうせ本命チョコレートをもらえる奴には我々の気持ちなど一生分からん!」
それな……と顔を見合わせて肩を落とす二人を見て、面倒くさくなることが分かったターチャンはため息をついた。
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シンヨコの喫茶店は、全国チェーンの店でも明け方までやっていることが多い。吸血鬼の需要が他よりも高く、働き手となる吸血鬼もまた多いからだ。市としても推奨しているし。役所の入り口に置いてあったチラシを思い出しながらコーヒーを啜る。それでも窓際の四人席を一人で使っていても差し支えないくらいの客入りだ。
その恩恵に預かって明け方四時の今こうして、カフェで待ち合わせをできているわけで。
まだ暗い外を見ると、道路を挟んだ向こう側にある吸血鬼ギルドのドアが開いて、ぞろぞろと退治人の皆さんが出てくるところだった。サテツくんよりもマリアさんが先に私を見つけて大きく手を振ってくるので私も振り返す。彼女とは吸血鬼関連の仕事に加え、害鳥の対応でも一緒になるので他の退治人よりも話す機会があるのだ。サテツくんも一瞬こちらを見たが、それに気が付いたロナルドさんやショットさんに囲まれて、肘でつつかれていた。けれどターチャンさんが何か言ったようで、二人とも元気をなくしたようにサテツくんから離れる。そこでやっとサテツくんが彼らから離れてこっちへ向かってきたので、私はスマホで見ていた映画を閉じて端末を伏せた。
「お待たせ」
「お疲れ様。何か食べるでしょ」
うん、と頷いて向かいの席に座った彼にメニューを渡す。外の寒さでサテツくんの顔が赤い。
メニューを何周かして、サテツくんはオムライスとカレードリアを注文する。私も空腹になってきたので、チョコレートケーキを注文した。もうほとんど朝だしいいだろう。店員さんにチョコレートケーキ、と注文するとサテツくんがう、と呻いたので私は首をかしげる。
「どうしたの」
「いや、今日退治した吸血鬼がなんていうか、通りがかった人からチョコレートを巻き上げるっていう奴でさ。……そ、れで、ショットとロナルドが相手に説得されそうになって大変だったんだよね。ドラルクさんは煽るばっかりだし」
確かに今日はとっくに日付が変わって二月十四日だ。この街では、イベントがあるとほとんど確実にそれを口実にして誰かしらが確実に問題を起こす。それが吸血鬼だったら、対応は彼らの仕事だ。
ちょうどいい話の流れになったので、自分の横に置いてあった紙袋を渡す。
「そうだ、チョコ持ってきたから渡すね」
「あ、ありがとう!」
紙袋を覗き込んだサテツくんがいっぱいある!と明るい声を上げる。中身は色々な味のチョコレートが80粒ほど入っているギフトセットだ。
「あと、大きいチョコレートファウンテンがあるビュッフェ行きたいんだけど、どうかな」
チョコレートフォンデュならそんなハイペースで消費しないでしょう、と付け足すとサテツくんは少しほっとした顔で頷いた。
日中は暖かいこともあるが、日が沈むとまだまだ冷え込む二月十四日、シンヨコの夜は今日もにぎやかだった。
「俺の名前は吸血鬼非リア王! 愚民どもは俺様にチョコレートを献上しろ!」
「チョコが集まればモテるってわけじゃないある」
「言葉の刃!」
エーン悪いか! いいんだよとにかく今日誰かが用意したチョコが手元にあれば!と少年の見た目をした吸血鬼は叫ぶ。その間も念動力で通りがかった人間からチョコレートを集めている彼に退治人たちは立ち向かう。のだが、ロナルドとショットは遠い目になる。ちょっと分かる、と思ったのだ。動きが鈍った二人をサテツはいぶかしく思って声をかける。
「どうした、大丈夫か」
「ううううるせー!! どうせ今日このあと彼女からチョコもらうんだろ!」
「待ち合わせとかしてんだろ!」
図星を刺され、サテツは狼狽する。その様子を見た吸血鬼は高笑いした。
「仲間割れか? どうせ本命チョコレートをもらえる奴には我々の気持ちなど一生分からん!」
それな……と顔を見合わせて肩を落とす二人を見て、面倒くさくなることが分かったターチャンはため息をついた。
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シンヨコの喫茶店は、全国チェーンの店でも明け方までやっていることが多い。吸血鬼の需要が他よりも高く、働き手となる吸血鬼もまた多いからだ。市としても推奨しているし。役所の入り口に置いてあったチラシを思い出しながらコーヒーを啜る。それでも窓際の四人席を一人で使っていても差し支えないくらいの客入りだ。
その恩恵に預かって明け方四時の今こうして、カフェで待ち合わせをできているわけで。
まだ暗い外を見ると、道路を挟んだ向こう側にある吸血鬼ギルドのドアが開いて、ぞろぞろと退治人の皆さんが出てくるところだった。サテツくんよりもマリアさんが先に私を見つけて大きく手を振ってくるので私も振り返す。彼女とは吸血鬼関連の仕事に加え、害鳥の対応でも一緒になるので他の退治人よりも話す機会があるのだ。サテツくんも一瞬こちらを見たが、それに気が付いたロナルドさんやショットさんに囲まれて、肘でつつかれていた。けれどターチャンさんが何か言ったようで、二人とも元気をなくしたようにサテツくんから離れる。そこでやっとサテツくんが彼らから離れてこっちへ向かってきたので、私はスマホで見ていた映画を閉じて端末を伏せた。
「お待たせ」
「お疲れ様。何か食べるでしょ」
うん、と頷いて向かいの席に座った彼にメニューを渡す。外の寒さでサテツくんの顔が赤い。
メニューを何周かして、サテツくんはオムライスとカレードリアを注文する。私も空腹になってきたので、チョコレートケーキを注文した。もうほとんど朝だしいいだろう。店員さんにチョコレートケーキ、と注文するとサテツくんがう、と呻いたので私は首をかしげる。
「どうしたの」
「いや、今日退治した吸血鬼がなんていうか、通りがかった人からチョコレートを巻き上げるっていう奴でさ。……そ、れで、ショットとロナルドが相手に説得されそうになって大変だったんだよね。ドラルクさんは煽るばっかりだし」
確かに今日はとっくに日付が変わって二月十四日だ。この街では、イベントがあるとほとんど確実にそれを口実にして誰かしらが確実に問題を起こす。それが吸血鬼だったら、対応は彼らの仕事だ。
ちょうどいい話の流れになったので、自分の横に置いてあった紙袋を渡す。
「そうだ、チョコ持ってきたから渡すね」
「あ、ありがとう!」
紙袋を覗き込んだサテツくんがいっぱいある!と明るい声を上げる。中身は色々な味のチョコレートが80粒ほど入っているギフトセットだ。
「あと、大きいチョコレートファウンテンがあるビュッフェ行きたいんだけど、どうかな」
チョコレートフォンデュならそんなハイペースで消費しないでしょう、と付け足すとサテツくんは少しほっとした顔で頷いた。
