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告白さえしていない
志摩視点 切ない
志摩視点 切ない
春、新生活のはじまり
新しい制服に身を包み、これから社会人生活が始まる。
ワクワクとドキドキで心が張り裂けそうです。
と、緊張していたら、なにやらキャピキャピした声が聞こえてくる。
「君かわえぇなぁ、初仕事? ほな、仲良うしよな♡」
ピンク頭のイケメンさんが声をかけてきた。
え、これ俗に言うナンパってやつ??
そんな経験が無かった私は思わず―
――
新生活は初めが肝心、色んな女の子に声かけとかんとな♡
「いや〜初仕事緊張するわ〜……まぁ、こんな可愛い子らと一緒やったら、楽しくやれそうやな♡」
軽いノリで初仕事の面々に挨拶しながら、いつもの調子でナンパをかます。
顔見知りの同僚たちが苦笑しながら「またかよ」と言いつつも、慣れた様子。
お、あっちにも見知らぬ子おるやん。
「君かわえぇなぁ、初仕事? ほな、仲良うしよな♡」
軽くウインクしながら、いつものノリで軽く口説く。
すると——
「っ!////」
顔が一瞬で真っ赤になり、目を逸らしながらめちゃくちゃ照れている。
「おっ……?」
……何やこの反応。
えっ、めっちゃ可愛いやん。なんやこれ、新鮮すぎるやろ……!
普段なら軽く流されるか、冗談で返されることが多いのに、こんなに素直に照れられるのは初めて。
思わず、ニヤッと笑みを浮かべる。
何やこの子……めっちゃうぶやん♡
――
初仕事でのあの反応が頭から離れず、ふと見かけるたびに、ニヤリと微笑みながら近づくようになった。
「おっ、また会ったな〜♡ 今日も可愛いな、ナマエちゃん?」
軽く肩を叩いたり、わざと近くに座ったりして、ちょっかいをかける。
ナマエちゃんの照れながらも「もう、やめてください……!」と顔を真っ赤にしながら反応する姿に
めっっっちゃ、可愛いんやけど……!
すでに、からかうのが楽しくて仕方なくなっている。
「いや〜、やめて言われたら余計やりたなるやん?」
軽くウインクしながら、指先でナマエちゃんの髪をくるくるといじる。
「ほらほら、今日はどんな反応してくれるん?」
また顔を真っ赤にしてそっぽを向く
……あかん、もう完全にお気に入りやわ。
そして、気がつけば、ナマエちゃんを見かけるたびにちょっかいをかけるのが日課になってしまった。
今日もナマエちゃんを見かけ、いたずらっぽい笑みを浮かべて近づく。
「今日も相変わらず可愛いなぁ」
「ちょ、やめてくださいってば……!」
顔を赤くしながら、慌ててそっぽを向く。
ニヤリと笑いながら肩をすくめ
「いや〜、そんな可愛い反応されるとなぁ……やめられへんやん?」
ナマエちゃんがますます顔を赤くして、困ったように眉を寄せる。あーかわええ♡
そして、しばらくそんなやり取りが続いていたある日——
志摩がいつものようにちょっかいをかけていると、突然、背後からズカズカと近づいてくる気配——
「志摩、ええ加減にせぇよ。」
低く鋭い声とともに、勝呂が志摩とナマエの間に割って入る。
「お?坊。どないしたん? 俺ら仲良くしとるだけやで?」
じろりと志摩を睨みつける。
「どこがやねん。ミョウジが困っとるやろが!」
ナマエが助け船を出してくれたことで、少しホッとしたように後ろに隠れる。
志摩が腕を組んで肩をすくめながら、少しだけ困ったように微笑む。
「まぁまぁ、そんな怒るなや。俺、ナマエちゃんが可愛すぎてついからかいたなるんやって♡」
坊がますます険しい表情になり、低い声で言い放つ。
「からかうんやなくて、ちゃんと向き合えや。」
その言葉に一瞬言葉を失った志摩。
そして、その横でナマエちゃんは守ってくれた坊を、キラキラした目で見つめて…る?
……ん? んん???
ナマエちゃんの純粋な“守ってくれた人を見る目”を見て、一気に胸の奥に違和感が走る。
坊のほうを尊敬の眼差しで見つめるナマエちゃん
いやいや、待て待て待て待て……この流れ、なんか嫌な予感すんねんけど!?
少しだけ眉を寄せながら、軽く咳払いをする。
「……ナマエちゃん、そんなキラキラした目で坊見んといてや?」
ナマエちゃん、我に返って「あっ……!」と顔を赤らめるが、なんだかまだ坊を尊敬の眼差しで見ている…
やばいやばいやばい、何やこの流れ、
少しだけ動揺しながらも、軽く笑って誤魔化しつつ、心の中ではめちゃくちゃ警戒し始める志摩だった——。
次の日——
ふと視界の端に気になる光景が飛び込んできた。
ナマエちゃんが……坊に話しかけている。
しかも、楽しそうに。
昨日までは、自分がからかうたびに照れたり、逃げたりしていたナマエちゃんが、今日は普通に坊と話している。
「勝呂くん、昨日は助けてくれてありがとうございました!」
「別に気にすんな。ただ、志摩が調子乗っとっただけやろ。」
「でも、すごく頼りになって……やっぱり勝呂くんってかっこいいなって思いました!」
……は?????
思わず心の中で大きく反応する。
しかも、ナマエちゃんが坊を見上げる目が、めっちゃキラキラしている。
心の中で焦りながらも、顔には出さず、ニヤリと微笑む。
「……ふぅん?」
そのまま、坊とナマエちゃんの会話を聞きながら、腕を組んで考える。
「いや、ちゃうやろ。これは……これは違うやろ?」
でも、なぜかモヤモヤする。
なんか……負けた気がする。
いやいや、そんなわけない。
でも……
「……ナマエちゃん、坊と仲良くなったんやなぁ?」
「えっ、あ、はい! 勝呂くん、すごく頼りになるし、話しやすくて……!」と満面の笑顔。
……マジで負けた気がしてきた。
それからしばらく——
ナマエちゃんが坊に話しかける姿を見るのにも慣れてきた。
最初は「まぁ、ええやろ」と余裕を装っていたが、いつしか「また坊と話しとるな」と気にするようになっていた。
そしてある日、ふと気づいてしまった。
——坊の視線が、ナマエちゃんに向いとる。
休憩中、仕事の合間——さりげなく、坊がナマエちゃんを気にするようになっているのが分かる。
最初は、ただナマエちゃんが話しかけてくるから相手してるだけやと思ってた。でも、最近の坊の態度は……
なんか、めっちゃ優しい。
ナマエちゃんが困ってたら、さりげなく手を貸す。ナマエちゃんが笑うと、ちょっと目を細めてる——いや、めっちゃわかりやすいやん。
今まで、自分だけがナマエちゃんをからかって、その反応を楽しんでいた。
でも今、ナマエちゃんが笑う理由は、坊の言葉や行動だったりする。
……これ、俺、負けそうちゃう?
負けるのは嫌やなぁ……
いや、そもそも、何に負けたらあかんと思っとるんや、俺は——
何気なく振り返ると、ナマエちゃんが坊と話しているのが目に入った。
楽しそうに笑っている。坊も、最初の頃より柔らかい表情で話をしていた。
……あぁ、ええ感じになっとるなぁ。
何でもないふうを装いながらも、ふっと目を細める。
そのまま、静かに二人を見つめながら、心の奥にぽつんと違和感が残るのを感じた。
なんやねん。坊、硬派なふりして、むっつりかいな
…ナマエちゃん見つけたんは、俺が先やったのに……。
最初にナマエちゃんの照れる顔を見たのは自分だった。最初にからかったのも、自分だった。なのに——
今、ナマエちゃんは坊を見て笑っている。
いつもの余裕のある笑みを浮かべようとするが、ふと、それが上手く作れないことに気づく。
胸の奥がチクリと痛む。
……なんやねん、これ。
「……まぁ、しゃあないわな。」
軽く笑ってみせるものの、その表情にはどこか切なさが滲んでいた——。
志摩はいつものようにナマエと勝呂が話しているところを何気なく眺めていた。
もう見慣れた光景。でも、今日のそれは、今までとは決定的に違っていた。
——坊が、ナマエちゃんを名前で呼んだ。
「ナマエ。」
その瞬間、ナマエちゃんの目が輝くのが見えた。
キラキラと嬉しそうな笑顔で、坊を見つめるナマエちゃん。
……あぁ、ついに。
自然な距離感。親しげな雰囲気。まるで、それが“当たり前”みたいな関係。
その様子を見ながら、志摩はふっと笑う。
でも、その笑みの奥にあるのは、明らかにいつもの軽さとは違うものだった。
……俺、何しとったんやろ。
気に入ってちょっかいをかけて、楽しくからかって、ナマエちゃんが照れる顔を見て満足して。
でも、その間に——
ナマエちゃんは、ちゃんと“自分を見てくれる人”を見つけて、そっちへ向かっていった。
……そぉか、俺
初めて、自分の胸の奥にあったものの正体を、はっきりと自覚する。
ナマエちゃんの照れる顔が可愛くて、ちょっかいをかけていただけのはずやった。
でも、本当は——
……俺、ナマエちゃんのこと、ほんまに好きやったんやな。」
今さら気づいてしまった、その気持ち。
でももう——手遅れや。
ナマエちゃんの瞳には、もう自分は映っていない。
(志摩、口元に軽く笑みを浮かべるが、その目はどこか切なげだった——。)