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幼馴染との別れ
志摩
志摩
「ほな、行ってくるわ!」
こんなにも離れるのは初めてだった。
ずっと幼馴染として育ってきた私たちが
この春、廉造は聖十字学園、私は地元の高校へと進学した。
新しい制服に袖を通しながら、ふと携帯を握りしめる。画面には、昨日送られてきたメッセージ「ほな、行ってくるわ!」と軽いノリの廉造からの最後の連絡。
―なんでやろ。
いつも隣におったアイツが、急に遠くに行ってしまったような気がして、胸がぎゅっと締めつけられる。
「別に、ただの幼なじみやのに…なんで、こんな気持ちになるんやろ……?」
周りは新しい環境にワクワクしとるのに、なんや、自分だけ取り残されたみたいや。
「ほななー!」と手を振る姿が、まだそこにあるような気がする、…もうおらんのに。
思わずため息をつきながら、ふと携帯を開く。新しい環境に馴染んでるんやろな、って思いながらも、無意識に「どう? 新生活?」と打ち込んでしまうが、送信ボタンを押す前に、指が止まる。
—なんで、そんなこと聞きたいんやろ? なんで、気にしてまうんやろ?
胸の奥が、じわっと苦しくなる。
「……アイツ、今何しとるんやろな……。」
青空の下、知らん制服を着た自分と、今頃聖十字学園の制服を着とる廉造。いつもなら隣におったはずの人が、今はもうここにはおらん。
—坊も子猫丸も皆行ってしまったから、一気に静かになった気がして、それだけや。
…それなのに、どうしてこんなに寂しいんやろ?
一方その頃、聖十字学園
寮の部屋で、荷解きをしながら携帯を机の上に置く。新しい環境、新しい生活。けど、どこか落ち着かん気持ちが胸の奥に残っとる。
「……なんやろな、この感じ。」
周りのやつらは、騒がしく新生活を楽しんどる。坊もおるし、ここでの生活もまぁ悪ないはずやのに。
ふと、机の上の携帯に手を伸ばし、ロック画面を開く。そこには未読の通知もなければ、新しいメッセージもない。
—あいつ、元気にしとるんかな。
無意識に、送りかけてやめたメッセージ。「そっちはどうや?」たったそれだけの言葉が、なぜか打ち込めへん。
携帯を持ったまま、ため息をついて、後ろにもたれかかる。
「……別に、気にする必要ないんやけどな。」
そう思っとるはずやのに、何でやろな。この感じ。
今まで当たり前のように隣におった存在。ふとしたときに目が合うたび、くだらん話で笑い合った日々。そんな日常が、急に遠のいたような気がする。
「……別に、大したことやない。ほんまに。」
そう言い聞かせるように、携帯を伏せる。でも、なぜか心の奥にぽっかりと穴が空いとるような、そんな気がしてしゃーない。
——なんやねん、これ。
新しい環境に馴染もうとする自分と、どこかで過去を引きずる自分。寮の窓から見える景色は、どこか違う世界のものみたいや。
「……あいつ、今なにしとるんやろな。」
そう呟いた声は、寮の静けさに溶けて消えていった。
---
学園生活にも慣れ始めた頃、
寮の一室、志摩は天井を見つめながら、携帯を握りしめていた。ロック画面を開くたびに期待してまう自分が情けなくて、ふっと苦笑する。
「……はぁぁ、しゃーないな。」
深いため息をつきながら、携帯を机に投げ出す。思わず浮かぶのは、地元に残ったナマエちゃんの姿。
彼女がもし、自分と同じ道を選んでたら—そう考えただけで、胸が締めつけられる。彼女が命を張る姿なんて、想像したくもない。
「……せや、あいつは普通の高校生活送っとるんや。それでええんや。」
無理やり自分を納得させるように呟く。でも、心の奥では割り切れへんモヤモヤが渦巻いとる。
隣で当たり前に笑っとった存在が、今はもうすぐ手の届かん場所におる。
——あいつが“祓魔師”にならんで良かった。
そう自分に言い聞かせるたび、なぜか喉の奥が苦しくなる。
それが本音か? ほんまにそう思っとるんか?
胸の奥にぽっかり空いた穴。それを埋める方法なんて分からん。
「……なんやねん、俺。」
結局、ナマエちゃんがどこにおろうと、何しとろうと、ずっと気にしてしまう自分がおる。
それでも、もう彼女の隣におることはできへん。
だからせめて、こう思うしかない。
——ナマエちゃんが命張る祓魔師を目指してなくて良かった。
そう思うことで、自分を納得させるしかない。
---
聖十字学園の校舎の片隅、志摩は壁にもたれかかりながら、軽く笑ってみせる。目の前には、可愛らしい女生徒たち。
「……おっ? なんや、君らめっちゃ可愛いなぁ♡」
軽い口調、いつもの調子。相手の反応を引き出すのは慣れたもん。
「せやけど、こんなとこで一人は危ないんちゃう? ほな、俺がエスコートしたろか?」
ニヤッと微笑み、軽い冗談を飛ばす。女の子たちは笑って、「志摩くんってチャラいねー」と言いながらも、楽しそうに話してくる。
——それでええんや。
適当に話を合わせて、適当に軽く振る舞う。何も深く考えんようにして、ただ楽しくやっとればええ。
「んー? 俺? そんなん、誰にでも優しいだけやで?」
適当に流す。誰にも本音なんか見せん。
——こうしてれば、考えんで済むやろ?
でも、ふとした瞬間、心の奥に空いた穴が疼く。
楽しそうに笑っとるはずやのに、何かが足りへん気がする。
目の前の女の子が笑う。けど、その姿はどこかナマエちゃんに重なって見えて——
「……っ。」
すぐに考えを振り払うように、ニヤッと笑い直し、もっと軽いノリで会話を続ける。
「ほな、またな♡ いつでも声かけてくれてええからな?」
そう言って別れた後、ふと一人になった瞬間、胸の奥がズキンと痛む。
どんだけナンパしても、どんだけ女の子と話しても——埋まらんもんは埋まらへん。
それでも、ナンパしとる間だけは考えんで済むから。
だから、今日も軽い笑顔を作って、別の子に声をかける。
——「なぁなぁ、君、めっちゃ可愛いやん? 俺とちょっと話してかへん?」
でも、その声にはどこか、空っぽな響きが混じっとった。
夜、寮の共有スペース。ソファにだらっと座りながら、携帯をいじっている。そこへ、勝呂が腕を組んで立ちはだかる。
「……最近お前どうしたんや、ちょっとやりすぎやぞ。」
勝呂の低い声に、志摩はふっと微笑みながら顔を上げる。
「……おっ? なんのことや?」
とぼけたように笑うが、勝呂の視線は鋭い。あまりにもあからさまな志摩の行動に、さすがに気づかんわけがない。
「ナンパの話? そんなん、いつも通りやん?」
携帯を弄びながら、軽い口調で返す。
「ちゃうやろ。」
勝呂が眉をひそめる。その視線が、胸の奥にズキリと突き刺さる。
「最近のお前、なんか必死すぎるっちゅーか……見てて痛いっちゅーか……。」
志摩は一瞬黙り、すぐに冗談で流せばいいのに、なぜか言葉が出てこない。
勝呂の鋭い眼差しが、何もかも見透かしているようで、胸の奥がざわつく。
「……そんなんちゃうて。」
軽く笑おうとするが、どこか無理がある。
勝呂は腕を組み直し、溜め息をつく。
「なぁ、志摩。お前……何を埋めようとしてんねん?」
その言葉に、一瞬、呼吸が止まる。
ごまかせるはずやったのに、なんでそんなこと聞いてくるんや。
ナンパはただの遊びや。適当に楽しんで、何も考えんで済むようにするための……
……違う。
分かっとる。自分でも分かっとる。
どれだけ軽いノリで過ごしても、心の奥に空いた穴は、埋まるどころかどんどん広がっていく。
ふと、手元の携帯を見下ろす。ロック画面には何の通知もない。
あいつからの連絡は、一通もない。
それが、こんなにも苦しいって、認めたくなかった。
「……別に、なんも。」
小さく呟くように言いながら、視線を逸らす。でも、勝呂の視線は鋭く、まだ何か言いたげやった。
……もう、この話終わりにしたい。
だから、いつも通り軽く笑って、肩をすくめる。
「まぁまぁ、俺は俺のやり方で楽しんどるんや。心配せんでもええって♡」
そう言って笑う自分の声が、どこか虚しく響いた。
「志摩さん、ナマエさんに彼氏ができたことそんなにショックやったんですか?」
と子猫丸が心配そうにつぶやく
…なんや、それ、聞いてない
いつものように軽く携帯をいじっていたが、その言葉を聞いた瞬間、指がピタリと止まる。
「……は?」
目を細め、ゆっくりと顔を上げる。子猫丸は首をかしげながら、真面目な顔で志摩を見ている。
「志摩さん、最近ナンパの回数増えすぎてるし、無理してる感じして……」
子猫丸の言葉が遠くで響く。頭の中が真っ白になる。
「……待て待て、何の話や?」
冗談みたいな口調で聞き返すが、手元の携帯をぎゅっと握る指が、微かに震えている。
そんなはず、ないやろ。
だって、何も聞いてへん。ナマエちゃんからは、そんな話、一言も——
心臓がズキリと痛む。
子猫丸が怪訝そうな顔で
「えっ、志摩さん知らなかったんですか? てっきり、もう聞いてるもんやと……」
聞いてない。
何も、聞いてへん。
……なんで、俺だけ知らんねん。
言葉が出てこない。笑おうとしても、喉が詰まる。
ナンパも、遊びも、何もかも無意味に思えてくる。
何をやっても埋まらんかった“ぽっかり空いた穴”が、ズタズタに広がっていく感覚。
まるで、世界が音をなくしたみたいに、シンと静かになった。
「……ははっ、なんや、それ……聞いてへんわ。」
かろうじて出た言葉は、自分でも驚くほど弱々しかった。
冗談みたいに笑おうとして、けど、笑えへんかった。
喉の奥が、ギリギリと締め付けられるように痛い。
……なんで、俺は何も知らんかったんやろな。
寮の自室の扉を閉めると同時に、震える手で携帯を握りしめた。
……何も考えたくない。
けど、頭の中にはぐるぐるとナマエちゃんのことが渦巻いとる。
本当なんか? ほんまに、ナマエちゃんに……彼氏ができたんか?
何も知らんかった自分が、悔しくて、苦しくて、どうしようもなくて。
……もう、どうにでもなれや。
考えるよりも早く、指が動いた。
発信音が鳴る。
心臓がバクバクとうるさい。
……出てくれ。
けど、出んでほしい。
声を聞きたい。でも、ホンマのことを聞いたら……自分はどうなるんや。
発信音が響くたび、鼓動が早まる。
「……っ。」
もし出たら、なんて言う?「元気か?」って? 「最近どうなん?」って? それとも——
それとも、いきなり「彼氏できたん?」って聞いてしまうんか?
それを、ナマエちゃんの口から聞いたら。
俺は、終わる。
発信音が止まり、通話が繋がった。
鼓動の音でナマエちゃんの声が聞こえへんのやないかなんて心配しつつ、携帯を耳に押し当てる手が、汗ばむ。
——「……もしもし?」
聞きたかった声。でも、聞きたくなかった声。
喉が、ひどく詰まる。
「……っ。」
言葉が出ない。今、何を言えばええ?
……いっそ、このまま黙って、何も言わずに切ったら——
——「廉造?」
優しくて、少し不思議そうな声。
なんでやろな。それ聞いた瞬間、胸が締め付けられて、呼吸が苦しくなった。
「……なぁ。」
自分でも驚くほど、声が震えていた。
「……ホンマなん?」
核心を突くような言葉が、勝手に口から出ていた。
心臓が痛い。息をするのもつらい。
頼む、嘘やって言うてくれ——。
「何が?」
喉がギリギリと締め付けられるような感覚、
ナマエちゃんの声は、いつもと変わらんトーンやった。でも、なんでやろな。「何が?」って、その一言がやたら遠く感じる。
手に汗が滲む。携帯を持つ指が少し震えた。
このまま話を逸らせるか? 「なんでもない」って誤魔化して、何事もなかったようにできるか?
いや、できるわけない。
今さら、知らんフリなんかできるか。
苦しさを飲み込んで、絞り出すように言葉を落とす。
「……ナマエちゃん、彼氏できたん?」
声が自分のもんやないみたいに、やけに掠れて聞こえる。
心臓がバクバクとうるさい。
頼むから、冗談やって言うてくれ。
「何言ってるの?」って、笑ってくれ。
ほんま、それだけでええんや。
「へ?なんのこと?」
息を止めたまま、しばらく沈黙する。
頭の中がグルグルと回る。「へ?」ってなんやねん。「なんのこと?」って、ほんまに分かってへんのか、それとも……。
どっちにしろ、心臓がうるさくてたまらん。
深く息を吸って、震えを押し殺しながら、ゆっくりと口を開く。
「……ナマエちゃん、彼氏できたんちゃうん?」
自分で言いながら、喉が詰まりそうになる。
子猫さんから聞いたときの衝撃、坊に突っ込まれたときの違和感、全部がぐちゃぐちゃになって、今ここにぶつけられている。
携帯の向こう側で、ナマエちゃんは何を思っとるんやろな。
頼むから、「なんでそんなこと聞くの?」とか言わんといてくれ。
頼むから、「うん」なんて言わんといてくれ。
嘘でもええ。適当に笑って、「誰がそんなこと言ったん?」って流してくれ。
じゃないと、俺——。
「あ、あー…高校の同級生に告白されたんよ、それを蝮達に相談したら、なんか話が大きくなっちゃったみたいで…」
言葉を失う。
心臓の音が、頭の中で響く。
そうか。そういうことか。
「告白された」だけで、「彼氏ができた」わけやない。
そう理解した瞬間、肩の力がガクッと抜けた。
膝の上に置いた手が、微かに震えとるのを自分でも感じる。
……アホちゃうか、俺。
勝手に勘違いして、勝手に動揺して、勝手に焦って。
ほんま、カッコ悪すぎるやろ。
でも。
今はただただ、心の底からホッとしている自分がおる。
ナマエちゃんの声が、いつもの調子で続く。
——「そっちにまで伝わってたん?」
息を吐きながら、少し力の抜けた声で答える。
「……せや。子猫さんに聞いた。俺だけ知らんかったみたいやったから……ちょっと焦ってもうたわ。」
軽く笑う。けど、自分でも分かるくらい、それは不自然な笑いやった。
心臓のざわつきが、まだ完全には収まらん。
「……で?」
ふっと、いつもの調子に戻したように言葉を続ける。
「ナマエちゃんは、その告白にどない答えたん?」
……頼むから、俺をもう一回ホッとさせてくれ。
「ん?断ったで」
一瞬、思考が止まる。
断った——。
その言葉が頭の中で何度も繰り返される。
気づけば、携帯を持つ手の力が抜けて、肩の力もすっと抜けていく。
視界がクリアになり、呼吸もさっきより楽になった気がする。
——断ったんか。
その事実だけで、胸の奥がじんわりと温かくなっていく。
けど、そんなの表に出したくなくて、わざと軽い口調で返す。
「……おっ? ほな、俺の焦り損やったってことやな?」
ふっと笑いながら、携帯を持ち直し、ソファの背もたれにもたれかかる。
「はぁぁ……なんや、ホンマにびっくりしたわ。子猫さんが妙に深刻そうな顔しとるから、俺完全に終わった思たわ。」
軽口を叩きながらも、心の奥ではじんわりとした安堵が広がっていく。
「…ちょっと待って、私が告白されて、なんで廉造が終わったと思うん?」
一瞬言葉を失う。
携帯を握る手が、また微かに震えるのを感じる。
しまった。無意識に、心の奥に隠しとった本音を漏らしてもうたんかもしれへん。
けど、今さら誤魔化すのは無理や。適当に流すなんてできへん。
だから、息をゆっくり吐いて、正直に言葉を選ぶ。
「……なんでやろな。」
少し笑う。けど、それはいつもの軽い笑いとは違う、どこか寂しげな笑いやった。
「……たぶん、俺はな?」
視線を天井に向けて、言葉を探すようにゆっくりと続ける。
「ナマエちゃんが、誰かのもんになるんが……嫌やったんやと思う。」
喉が乾いて、言葉が詰まりそうになる。
「……いや、別に俺にそんな権利ないのは分かっとるで?」
苦笑しながら、ソファにもたれかかる。
「せやけど、考えてもうたんや。もし、ナマエちゃんが誰かと付き合って、俺と話す時間が減って、俺の知らん顔を誰かに見せるようになって……。」
言葉を詰まらせる。喉の奥が締め付けられる。
「……そんなの、耐えられる自信なかったんや。」
携帯の向こうのナマエちゃんが、今どんな顔をしとるのか分からへん。でも、今は怖くて聞けへん。
___
数秒の沈黙を破り、少し怒りが滲み出た声が聞こえた。
「ほーん…廉造、私も最近の廉造の話を坊から聞いててんけどな、…ナンパばっかりしとるらしいな?」
その言葉に、ピタリと動きを止める。
……やば。
坊からの報告、やっぱりナマエちゃんに届いとったんか。
携帯を持つ手がじわっと汗ばむ。心臓の鼓動が少し早くなる。
けど、ここで焦ったら終わりや。今まで散々誤魔化してきたんやから、うまく乗り切らな
——
「……おっ? ほな、坊、余計なこと言いよったんやな?」
わざと軽い口調で笑いながら、冗談っぽく返す。
「せやせや、俺はモテる男やからな? ちょっと声かけるだけで、すぐ女の子が寄ってきよるんや♡」
あくまでいつもの“軽いノリ”でいく。そうすれば、ナマエちゃんも適当に流してくれるはず——
——「……で?」
……あかん、これ終わった。
ナマエちゃんの声のトーンがいつもと違う。冗談で流せる空気やない。
ふと、手元の携帯をじっと見つめる。画面の向こうでナマエちゃんがどんな顔をしとるか分からん。でも、なんとなく想像はつく。
このまま適当に誤魔化してもええ。でも、それで本当にええんか?
胸の奥がズキリと痛む。
ほんまは分かっとるんや。ナンパなんかで誤魔化せるような気持ちやなかったってことくらい。
だから、ふっと息を吐いて、今度は少しだけ真剣な声で答えた。
「……まぁ、ちょっとやりすぎたんは、分かっとる。」
少し間を置いて、正直に言葉を続ける。
「せやけど、それでも俺……何もしとらんかったら、考えてまうんや」
喉の奥が締め付けられる感覚。
「ナマエちゃんのこと、でも、何かしとったら、そんなん忘れられる思たんや。」
携帯を握る指に力が入る。
「せやけど、結局……どんだけナンパしようが、どんだけ遊ぼうが……空っぽなまんまやったわ。」
ふっと笑う。でも、それは自嘲気味な笑いやった。
「……俺、アホやろ?」
問いかけるように言う。ほんまに、自分でもそう思う。
でも、ナマエちゃんには誤魔化したくなかった。
今さら、遅いかもしれへんけど——
「…廉造がナンパばっかりしてるて聞いて、私がどう思ったと思うん…」
……やばい、これは完全に怒らせた。
ナマエちゃんの声が、普段の軽い調子とは違う。静かで、でも確実に怒りが込められてるトーン。
こういう時のナマエちゃんは、下手に誤魔化したら余計に拗れる。
いや、そもそも誤魔化すつもりなんかもうないけど——
喉がカラカラに乾く。軽口を叩く余裕もない。
何を言えばいい? 「ごめん」か? いや、それだけじゃ済まへんやろ。
深く息を吸い、正直に聞くしかない。
「……正直、分からん。」
少し低めの、普段より落ち着いた声で答える。
「でも、ええ気分やったとは思えへんな。」
頭の奥がズキズキする。目の前がじわっと暗くなる感覚。
「……ほな、教えてくれるか?」
少し震えた声で、静かに問いかける。
頼むから、俺を突き放さんといてくれ。
「高校から別になって、なんや心が切なくなって、あー…私、廉造が好きやってんなぁって気づいてから、速攻その話聞いて、告白もしてへんのにフラれた女の気持ちをどう思うんよ!?」
志摩、完全に思考停止。
……は?
今、何て言うた?
ゆっくりと、ナマエちゃんの言葉が頭の中で繰り返される。
——「あー…私、志摩が好きやってんなぁって気づいて」
——「速攻その話聞いて、告白もしてへんのにフラれた女の気持ちをどう思うんよ!?」
心臓が一瞬止まったような気がした後、今度は爆発しそうなくらい速くなる。
耳まで熱くなるのが自分でも分かる。息が詰まる。
……まじか。
携帯を握る手がじわっと汗ばむ。指が震えて、上手く力が入らん。
この状況、どうする? どう言えばええ?
いや、待て。それよりも。
ナマエちゃんが——俺のこと、好き?
冗談やないよな? 今の声、完全に本気やった。
軽口で流すのは無理や。これは、俺がちゃんと答えなあかんやつや。
……くそ、心臓うるさい。
息を整えようとするが、全然落ち着かん。
でも、言わなあかん。
震える声を無理やり押さえつけ、喉の奥から絞り出す。
「……ほな、やり直し、させてもらえへん?」
じっと携帯を見つめながら、真剣に続ける。
「ナマエちゃんが俺のこと好きって、今知った。」
「俺も、ナマエちゃんのことずっと大事に思っとった。でも……気持ち、誤魔化しとった。」
喉が詰まる。でも、伝えなあかん。
「俺、アホやった。ほんま、最低やった。でも……まだ間に合うんやったら。」
「俺が、ナマエちゃんのこと、ちゃんと好きやって証明させてくれへん?」
息を止める。携帯の向こう側のナマエちゃんの反応を、待つしかない。
(頼むから、このチャンスを——逃させんといてくれ。)
----
後日、頻繁に彼女に会いに来る姿があったとか、なかったとか…
「廉造、最近頻繁にコッチ来るなぁ?」
「ん?スパイの鍵でちょちょいとな♡」
「……スパイになったのそれが理由ちゃうやろな?」
「えへ♡」
