柳静

「――いってらっしゃい、静」

 お母さんが優しくベールを下ろしてくれて、小さな声でそう言って笑ってくれた。

 白くて明るい綺麗なチャペルのバージンロードを、お父さんとゆっくり歩く。手を繋いだのなんて何年ぶりだろう。ちらっと横を見たら、今にも泣きそうな顔をしていて笑ってしまいそうになった。

 私のことを、こんなに想ってくれてありがとう。

 神父さんの前で待つ蓮二さんは、外から射し込む光も相まって神々しく見えるぐらいかっこよかった。お父さんから私を託され、丁寧に頭を下げてから私に向き合う。ベール越しでも、これまでで一番優しく微笑んでくれているのが分かった。

 そのベールが、彼の手でゆっくりと上げられる。これからはベールの代わりに、新郎が新婦を守るという誓いの行為。はっきり見えるようになった蓮二さんはやっぱりかっこよくて、ちょっとうるっとしてしまった。

 蓮二さんはこう見えて寂しがり屋だし、私も蓮二さんを守りたい。

 神父さんに導かれて、まず言葉で永遠の愛を誓う。そして誓いの口づけへ。向かい合って彼の顔を見上げると、背の高い彼が少し身を屈める。 私も背伸びして唇を迎えようとした。

「!!」

 慣れない靴で背伸びしたのがいけなかった。バランスを崩して前に転びかける。すぐに蓮二さんが体を支えてくれて、腕に抱かれた。顔を彼の体にぶつけて白いスーツをメイクで汚すこともない、完璧な動きだった。

 早速守られちゃった。恥ずかしいやら気が動転するやらで泣きそうになりながら蓮二さんの顔を見る。さっきまでの微笑みとはまた違う、心底可笑しそうな笑みを浮かべていた。そのままキスをされる。チャペル内に拍手が弾けた。

 彼には一生叶わないのかもしれない。そう思いながら私も腕を回した。
1/2ページ
スキ