君の制汗剤の匂いがした。
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「結衣、帰ろうぜ。」
そう体育館前に座っていた彼女に声をかけた。彼女は、開いていた参考書を閉じ「お疲れ様」と彼に一言告げる。日が落ちたとはいえ、涼しいとは言えないこの時期に毎度外で待たせるのが申し訳ないと彼は熟感じていた。
彼らが、一緒に帰宅をし始めたのは一年生の時。彼が、テスト期間中の居残り練習を終え、帰宅しようとしていた時、体育館前の扉に寄りかかって規則正しい寝息を立てる彼女を見つけた。こんな所で何をしているのか、他の部員ならとっくに帰宅していることくらい、知っている筈だ。疑問だけが頭の中を巡り、仕方なく彼女の肩を叩き起こす。眠気まなこな目を擦り、彼女はひとつ欠伸を零した。そして、自分の置かれている状況に気づいた途端真っ赤に顔が染まっていく。
「…っ、あ、すいません。いつの間にか…」
「いや別に、それより風邪とか引いてねぇか?夏とはいえ、外で寝てたら風邪引くぞ」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
「…ところで、何でこんな所で寝てたんだ?」
物事の核心を突くと、彼女はぴくりと眉を動かし苦笑いをした。恥ずかしそうに視線を逸らしながら、「…だ、誰が練習しているんだろうと思って、気になって覗いてたらいつの間にか…すいません、勝手に。」そう言い、こちらの様子を伺いながら、小さく頭を下げた。彼女の表情を見る限り、彼が怖がられているのが分かる。別に怒っているわけでもないのに。良くあることなので、慣れてしまったと言えば、慣れてしまったことだ。けれども、やはり初対面の相手に、恐怖の目を向けられるのは嬉しいことではない。複雑な気持ちを抱きながら、彼自身の頭掻き彼女に「ちょっと顔上げろ」と言った。言葉の選び方が悪かったのかもしれないが、見るからに引き攣った表情であるのは確かである。
「別に怒ってねぇよ、お前家の方面どっちだ?送ってくよ。夜遅いしな」
「えっ、とんでもない。そんな、大丈夫…」
「大丈夫って言って、何かあったら遅ぇんだぞ」
「うっ、ご最も…」
もう彼女と話す機会も無いだろう、と思っていたのだが次の日、今度は練習終わりの彼を寝ずに起きて待っていた。
「お礼」
「大したことしてねぇけど」
「私がしたいだけ」
「じゃ、有難く頂くわ」
彼女が持ってきたのは、クッキー。見るからに手作りであろうクッキーは甘すぎず、ちょうど良かった。それから、どちらが誘ったとかそういうのはなく、自然とこのテスト期間は一緒に帰るのが習慣になっている。一度だけ、後輩の高尾に見られたことがあり翌日の練習で、散々問い詰められた。その時、胸の中にあった気づかないフリをしていたとある感情を自覚した。ああ、これはきっと恋だと。
よく笑う彼女の姿。テスト期間以外も度々体育館を覗いてこっそりお菓子を置いていく。彼も、最初は分からなかったが、数ヶ月もすれば味で誰のものか分かるようになった。運動をしている彼に合わせて、糖分は控えめで作る彼女の優しさを感じる。当たり前になってきていて、何も感じていなかったか周りから見れば、付き合っているものだと思っていたらしい。彼女がどういう気持ちで、彼にお菓子を作りこっそり渡していたのか。もっと早く、汲み取ってあげるべきだったのではないかと後悔した。けれども、生憎彼には持ち合わせている勇気がなく自分の口から告げることなど出来なかったのである。
レギュラーを勝ち取り、スタメン入りをしたこの夏。今の自分なら、少しくらい自信過剰になってもいいかもしれない。
「…なぁ、結衣」
「どうしたの宮地くん」
「ずっと隠してたことがあんだ」
「今更何か隠し事なんてあるの?」
好きな食べ物、好きなタイプ、好きな芸能人、好きなものは語り尽くした。けれども、まだ言っていない彼の好きな人。口から心臓が出そうなくらい緊張して、頭が回らない。あと少しで、言葉が繋がりそうなのに喉の奥で引っかかって上手く言葉にならない。逃げるな、逃げるな。自分自身の心の中でそう強く言い聞かせる。
「俺、ずっと結衣のことが好きだった」
「……宮地、くん」
「ほんとはもっと早く言いたかったんだけど、俺自分に自信なくて。けど、今なら言えるかな、って」
ふらりと彼女はバランスを崩し、そのまましゃがみ込んだ。何事かと思い、彼女に目線を合わせるように彼も座り込む。
「…ほんとは、一年生のあの時からずっと、宮地くんが好きで、それで…」
「おう、だろうと思ってた」
「し、知ってたの…?!」
「いーや、気づいたのは割と最近」
彼は優しく彼女の頭に右手を置いて笑いかけた。
「それで、答えは?」
「分かってるくせに」
「いいだろ、別に」
空いた左手をそっと、掴んだそれが答え。
そう体育館前に座っていた彼女に声をかけた。彼女は、開いていた参考書を閉じ「お疲れ様」と彼に一言告げる。日が落ちたとはいえ、涼しいとは言えないこの時期に毎度外で待たせるのが申し訳ないと彼は熟感じていた。
彼らが、一緒に帰宅をし始めたのは一年生の時。彼が、テスト期間中の居残り練習を終え、帰宅しようとしていた時、体育館前の扉に寄りかかって規則正しい寝息を立てる彼女を見つけた。こんな所で何をしているのか、他の部員ならとっくに帰宅していることくらい、知っている筈だ。疑問だけが頭の中を巡り、仕方なく彼女の肩を叩き起こす。眠気まなこな目を擦り、彼女はひとつ欠伸を零した。そして、自分の置かれている状況に気づいた途端真っ赤に顔が染まっていく。
「…っ、あ、すいません。いつの間にか…」
「いや別に、それより風邪とか引いてねぇか?夏とはいえ、外で寝てたら風邪引くぞ」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
「…ところで、何でこんな所で寝てたんだ?」
物事の核心を突くと、彼女はぴくりと眉を動かし苦笑いをした。恥ずかしそうに視線を逸らしながら、「…だ、誰が練習しているんだろうと思って、気になって覗いてたらいつの間にか…すいません、勝手に。」そう言い、こちらの様子を伺いながら、小さく頭を下げた。彼女の表情を見る限り、彼が怖がられているのが分かる。別に怒っているわけでもないのに。良くあることなので、慣れてしまったと言えば、慣れてしまったことだ。けれども、やはり初対面の相手に、恐怖の目を向けられるのは嬉しいことではない。複雑な気持ちを抱きながら、彼自身の頭掻き彼女に「ちょっと顔上げろ」と言った。言葉の選び方が悪かったのかもしれないが、見るからに引き攣った表情であるのは確かである。
「別に怒ってねぇよ、お前家の方面どっちだ?送ってくよ。夜遅いしな」
「えっ、とんでもない。そんな、大丈夫…」
「大丈夫って言って、何かあったら遅ぇんだぞ」
「うっ、ご最も…」
もう彼女と話す機会も無いだろう、と思っていたのだが次の日、今度は練習終わりの彼を寝ずに起きて待っていた。
「お礼」
「大したことしてねぇけど」
「私がしたいだけ」
「じゃ、有難く頂くわ」
彼女が持ってきたのは、クッキー。見るからに手作りであろうクッキーは甘すぎず、ちょうど良かった。それから、どちらが誘ったとかそういうのはなく、自然とこのテスト期間は一緒に帰るのが習慣になっている。一度だけ、後輩の高尾に見られたことがあり翌日の練習で、散々問い詰められた。その時、胸の中にあった気づかないフリをしていたとある感情を自覚した。ああ、これはきっと恋だと。
よく笑う彼女の姿。テスト期間以外も度々体育館を覗いてこっそりお菓子を置いていく。彼も、最初は分からなかったが、数ヶ月もすれば味で誰のものか分かるようになった。運動をしている彼に合わせて、糖分は控えめで作る彼女の優しさを感じる。当たり前になってきていて、何も感じていなかったか周りから見れば、付き合っているものだと思っていたらしい。彼女がどういう気持ちで、彼にお菓子を作りこっそり渡していたのか。もっと早く、汲み取ってあげるべきだったのではないかと後悔した。けれども、生憎彼には持ち合わせている勇気がなく自分の口から告げることなど出来なかったのである。
レギュラーを勝ち取り、スタメン入りをしたこの夏。今の自分なら、少しくらい自信過剰になってもいいかもしれない。
「…なぁ、結衣」
「どうしたの宮地くん」
「ずっと隠してたことがあんだ」
「今更何か隠し事なんてあるの?」
好きな食べ物、好きなタイプ、好きな芸能人、好きなものは語り尽くした。けれども、まだ言っていない彼の好きな人。口から心臓が出そうなくらい緊張して、頭が回らない。あと少しで、言葉が繋がりそうなのに喉の奥で引っかかって上手く言葉にならない。逃げるな、逃げるな。自分自身の心の中でそう強く言い聞かせる。
「俺、ずっと結衣のことが好きだった」
「……宮地、くん」
「ほんとはもっと早く言いたかったんだけど、俺自分に自信なくて。けど、今なら言えるかな、って」
ふらりと彼女はバランスを崩し、そのまましゃがみ込んだ。何事かと思い、彼女に目線を合わせるように彼も座り込む。
「…ほんとは、一年生のあの時からずっと、宮地くんが好きで、それで…」
「おう、だろうと思ってた」
「し、知ってたの…?!」
「いーや、気づいたのは割と最近」
彼は優しく彼女の頭に右手を置いて笑いかけた。
「それで、答えは?」
「分かってるくせに」
「いいだろ、別に」
空いた左手をそっと、掴んだそれが答え。
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