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本当に守りたかったもの(三嶽+戦場)

 戦いを好む俺は、傷つかないようにと高い高い塔の上で守られている。
 一方で戦いを嫌うあいつは、赤黒い地上で傷つきながら戦っていた。
 塔の上で守られている――というよりは閉じ込められているに等しい俺にはどうすることも出来ず、戦い続けるあいつをただただここから見下ろしていた。

『トージはここで待っててくれ。絶対に出ようとしたら駄目だからな』
 優しい声なのに真剣な眼差しで、塔の上まで連れて来られて結界を張られた。
『なんで……俺も戦う! タマキだけで行かせるなんてできねえ! そもそもお前じゃ無理があるだろ!?』
『いいか、トージ。俺はお前が思うような破壊をしに行くんじゃない。仲間の天使を守りに行くんだ』
『っ……だからっ、お前より俺のほうが戦力に――』
『そうかもしれない。でも待っててくれ。絶対にまたこの塔に戻ってくるから』
『偽善者ぶってんじゃねーよ……』
 タマキの防御に特化した強力な結界は、攻撃に特化した俺でも壊せなくて。結界越しにタマキの背中を見届けるしかできなくて。
 結局、無力なのは俺だ……。

「人間みたいな醜い争いだ」と。「俺が止めないで誰が止める?」と。俺を戦わせないために、あいつは自ら傷つく戦争(みち)を選んだ。
 この天界戦争には終わりが来ないんじゃないかと、俺ですら思うくらい長くて。既にあいつの右の翼は失われていた。残った左の翼もボロボロで、息を吹きかければすぐにでも散ってしまいそうだった。
 両翼が失われた時、天使ではいられなくなる。そして、天界から下界に捨てられる。
 寿命も性も持たない俺たち天使が翼を失い下界へ落ちれば、天使としての記憶を失くし、人間として生まれ変わり、人間として死ぬ――と云われている。
(両翼を失えば、俺と過ごした数千年の記憶も失う……そうまでしてあいつは俺を守って、何の意味がある? 俺は戦えるのに。俺にそこまでの価値があるってのかよ……)

 あいつは、人間の言葉で言うなら〝死んだ〟。あいつは守りたいものだけ守って、あいつだけが犠牲になって、たったひとりで下界に身を落とした。

 天使は神によって生み出され、不老不死で無性別。だが個々に感情が与えられたが故に、小さな争いが生まれる。それがいつしか大きな争いになり、俺は数千年共に時間を過ごした〝恋人〟を失くした。
 仲間の天使も、俺たちを創造した神も――俺は許さない。
 天界にいる理由も神の駒でいる理由もなくなった俺は両の翼を乱暴に毟り取り、背から吹き出る血を浴びながら下界へと〝追放〟された。神への裏切り行為として。

「今日は雨なんて、お天気お姉さんは言ってなかったんだけどなー……」
「――傘、持ってねぇの?」
「ん? ああ、今日ばっかりは予報外れるなんて思ってなくてさ。朝までからっからに晴れてたから、まさかこんな豪雨になるとはなぁ」
 お前は、困ったように笑う。
「ま、そういう日もあるだろ」
「……ところでお前さ、俺のこと知ってるのか?」
「あ? なんで?」
「いや……なんていうか。お前のこと知らないはずなんだけど、一瞬〝知ってる〟気がしたっていうか……ん~、言葉で説明すんの難しい」
 眉間にしわを寄せて目を細めて。言葉のひとつひとつは優しいのに、どこか真面目さが伝わってくる――あの時から変わってない。
「まぁ、俺一年だし。知らなくて当然だから、そう悩むなって」
 ――俺はお前のこと、よく知ってるよ。ずっと昔から。ずっと捜してたから。
 あそこにいた頃の記憶は曖昧な部分も多いが、お前との記憶だけは鮮明に、昨日のことのように残ってた。これが嬉しいのか、悲しいのか。人間の俺にはよくわからない。
「じゃあ名前教えてくれ。俺は戦場環。お前は?」
 ただひとつ言えるのは、カミサマは残酷だってこと。
「俺は――」
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