狂依存(三嶽+戦場)戦場視点
高校を卒業してから3度目の春。毎年決まって、この季節になると思い出す――
放課後の咲きかけた桜の下で、俺と同じクラスのいかにも生徒会長であるとわかる清楚な女の子が彼を待っていた。
「塔士くん、急に呼び出してごめんね」
約束の時間どおりには来なかった塔士に彼女のほうが謝ってるが、どこか嬉しそうにしている。
「それで、話って何ですか?」
自分が遅れたことには一切触れず、塔士は〝俺以外〟にしか見せない柔らかな口調で、笑みで、声で。彼女に問う。
「明日……私、卒業でしょ。だから……」
女の子がぽつりぽつりと話し出すと、塔士の表情が一変した。
「まさか、俺に告白するってんじゃねぇよなぁ?」
自分よりずっと背の低い女の子を更に見下ろすように顔を上げて、馬鹿にしたように言う。
口調も表情も声も、ついさっきまでの塔士とはまるで別人だ。いや、これが俺の知るいつもの塔士だ。
「えっと……」
彼女は急変した塔士の言動に動揺を隠し切れず、視線を泳がせ必死に言葉を探している。
「あの、塔士くん……?」
「当たりかぁ? お前、鏡で自分のツラ見たことあんのかよ。卒業だからだか何だか知らねぇけど、お前みたいなどこにでもいるモブ女と、俺が付き合うわけねぇだろ。バカじゃねぇの」
「っ……」
さっきまではあんなに嬉し恥ずかしそうにしていた彼女は、最後には塔士の顔すら見れなくなり、泣きながらその場から走り去って行った。
「塔士……」
「ハッ。盗み聞きかよ、シュミ悪ぃな」
「人聞きの悪い……塔士が呼んだんだろ。あの子が塔士を呼び出した時間に」
「そーだっけか? ハハッ」
塔士は悪びれた様子もなく、近くにある花壇のコンクリートに座った。
「……良かったのか」
「あ? 何がだよ」
「さっきのあの子だよ。言い過ぎじゃないのか。泣いてたぞ」
「知るか。結局あの女も俺の顔目当てだったってことだろ。それなのに俺が悪いってのかよ」
「そう言ってるんじゃないけど、もっと言い方が――」
「るせぇなぁ。だったらお前があの女のこと〝慰めて〟やりゃあいいじゃねぇか」
「どうしてそうなるんだよ……」
「最近モデルのバイトが忙しくてお前に構ってやるヒマなかったからな。溜まってんのかと思って」
「……そもそも構われた覚えもないけど。話戻すけどさ、告白してくる女の子みんなに、ああいうこと言ってるんじゃないだろうな?」
塔士なら言いかねない。普段はさっきのあの彼女に見せたような態度で上手くやってるようだけど、俺の前ではいつもこうだ。塔士にとって先輩も後輩も何ら変わらないんだろうなぁ。
「は? だったら?」
「あんな言い方されたら、一生忘れられないぞ」
「いーんじゃねぇの、別に。俺の顔とヤリ目的な女共には丁度いい。それに、俺にはお前がいるだろ? 本当の俺を知ってるのはお前だけで十分だ」
塔士はそう言い残して、学校を後にした。
「俺にはお前がいる――か。どういう意味で言ってるんだかさっぱりわからない……」
確かに塔士は、容姿だけは申し分ない。そのせいか、彼の見た目から惚れてしまう女の子も多いのもまた事実だ。だからきっと、容姿以外を見てくれる人を求めてるのかも知れない。ただそれが偶然、俺だっただけのこと。
塔士が思っているほど俺は良い奴じゃないし、そう思ってくれてるならそれでも構わない。
本当の塔士を知ってる俺と、俺のことを何も知らない可哀相な塔士。
俺は外見ばかり気に入られて、それが不満で歪んでいく塔士が大好きだ。そしてあの女の子よりもずっとずっと昔に傷ついている塔士を守ること、俺が塔士の側にいる理由。
俺もまたあの彼女と同じ、明日卒業だ。
放課後の咲きかけた桜の下で、俺と同じクラスのいかにも生徒会長であるとわかる清楚な女の子が彼を待っていた。
「塔士くん、急に呼び出してごめんね」
約束の時間どおりには来なかった塔士に彼女のほうが謝ってるが、どこか嬉しそうにしている。
「それで、話って何ですか?」
自分が遅れたことには一切触れず、塔士は〝俺以外〟にしか見せない柔らかな口調で、笑みで、声で。彼女に問う。
「明日……私、卒業でしょ。だから……」
女の子がぽつりぽつりと話し出すと、塔士の表情が一変した。
「まさか、俺に告白するってんじゃねぇよなぁ?」
自分よりずっと背の低い女の子を更に見下ろすように顔を上げて、馬鹿にしたように言う。
口調も表情も声も、ついさっきまでの塔士とはまるで別人だ。いや、これが俺の知るいつもの塔士だ。
「えっと……」
彼女は急変した塔士の言動に動揺を隠し切れず、視線を泳がせ必死に言葉を探している。
「あの、塔士くん……?」
「当たりかぁ? お前、鏡で自分のツラ見たことあんのかよ。卒業だからだか何だか知らねぇけど、お前みたいなどこにでもいるモブ女と、俺が付き合うわけねぇだろ。バカじゃねぇの」
「っ……」
さっきまではあんなに嬉し恥ずかしそうにしていた彼女は、最後には塔士の顔すら見れなくなり、泣きながらその場から走り去って行った。
「塔士……」
「ハッ。盗み聞きかよ、シュミ悪ぃな」
「人聞きの悪い……塔士が呼んだんだろ。あの子が塔士を呼び出した時間に」
「そーだっけか? ハハッ」
塔士は悪びれた様子もなく、近くにある花壇のコンクリートに座った。
「……良かったのか」
「あ? 何がだよ」
「さっきのあの子だよ。言い過ぎじゃないのか。泣いてたぞ」
「知るか。結局あの女も俺の顔目当てだったってことだろ。それなのに俺が悪いってのかよ」
「そう言ってるんじゃないけど、もっと言い方が――」
「るせぇなぁ。だったらお前があの女のこと〝慰めて〟やりゃあいいじゃねぇか」
「どうしてそうなるんだよ……」
「最近モデルのバイトが忙しくてお前に構ってやるヒマなかったからな。溜まってんのかと思って」
「……そもそも構われた覚えもないけど。話戻すけどさ、告白してくる女の子みんなに、ああいうこと言ってるんじゃないだろうな?」
塔士なら言いかねない。普段はさっきのあの彼女に見せたような態度で上手くやってるようだけど、俺の前ではいつもこうだ。塔士にとって先輩も後輩も何ら変わらないんだろうなぁ。
「は? だったら?」
「あんな言い方されたら、一生忘れられないぞ」
「いーんじゃねぇの、別に。俺の顔とヤリ目的な女共には丁度いい。それに、俺にはお前がいるだろ? 本当の俺を知ってるのはお前だけで十分だ」
塔士はそう言い残して、学校を後にした。
「俺にはお前がいる――か。どういう意味で言ってるんだかさっぱりわからない……」
確かに塔士は、容姿だけは申し分ない。そのせいか、彼の見た目から惚れてしまう女の子も多いのもまた事実だ。だからきっと、容姿以外を見てくれる人を求めてるのかも知れない。ただそれが偶然、俺だっただけのこと。
塔士が思っているほど俺は良い奴じゃないし、そう思ってくれてるならそれでも構わない。
本当の塔士を知ってる俺と、俺のことを何も知らない可哀相な塔士。
俺は外見ばかり気に入られて、それが不満で歪んでいく塔士が大好きだ。そしてあの女の子よりもずっとずっと昔に傷ついている塔士を守ること、俺が塔士の側にいる理由。
俺もまたあの彼女と同じ、明日卒業だ。
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