夢ノ森にて
あの日もよく晴れた日だった。私は森に呼ばれ、夢ノ大樹へ向かう途中、ここを通ったのだ。夢災でいつもの道が通れなかったから。そうだったにしても、森の呼びかけは少しいつものそれと違うように思えた。暫く慣れない道を行ったその先の、光の空間に見慣れない色の布切れのようなものが落ちていた時は目を疑った。この森には私以外入れる筈がなかったのだから。
夢災で結界が破れて入り込んだのだろうとその時は見当をつけ、私は恐る恐るそれに近づいた。それには傷だらけの白い四肢と頭がついていて、黒っぽく燻ったような色の長い髪が白い顔にはりついていた。それが小さな女の子であることを理解した瞬間、私はその子に駆け寄った。抱きあげようとすると彼女を守るかのように急に地面から黒い茨が生えて私の手を刺した。
主を守ろうと必死に牙を向く小さく勇敢な茨に、
「いたた、大丈夫よ。貴方のご主人は責任をもって元気になるまでお世話するわ」
と伝えると、茨は訝しげながらも私の手にまとわりつくのをやめ、大人しくなった。
その子は軽かった。空気を持っているのかと間違える程に。傷だらけであっても綺麗で整った顔立ちだったのが余計痛々しかった。冷たい体を抱き上げるとだらりと力なく四肢を垂らした。
私は踵を返し、夢ノ大樹に行くことを諦め、自分の館へと引き返すことにしたのだった。
夢災で結界が破れて入り込んだのだろうとその時は見当をつけ、私は恐る恐るそれに近づいた。それには傷だらけの白い四肢と頭がついていて、黒っぽく燻ったような色の長い髪が白い顔にはりついていた。それが小さな女の子であることを理解した瞬間、私はその子に駆け寄った。抱きあげようとすると彼女を守るかのように急に地面から黒い茨が生えて私の手を刺した。
主を守ろうと必死に牙を向く小さく勇敢な茨に、
「いたた、大丈夫よ。貴方のご主人は責任をもって元気になるまでお世話するわ」
と伝えると、茨は訝しげながらも私の手にまとわりつくのをやめ、大人しくなった。
その子は軽かった。空気を持っているのかと間違える程に。傷だらけであっても綺麗で整った顔立ちだったのが余計痛々しかった。冷たい体を抱き上げるとだらりと力なく四肢を垂らした。
私は踵を返し、夢ノ大樹に行くことを諦め、自分の館へと引き返すことにしたのだった。
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