3
青年は暫くその名前の響きを吟味しているようだった。
「へえ、良い名前だな。懐かしい感じがする」
よろしく、というように青年は笑いかけた。もっとも、見えているのは口元だけでゴーグルの下の瞳が何を映しているのかなど分かりもしない。
「ところでさ、扉に書いてあった文字、読んだか?」
何の事だろうかとハルが首を傾げる。それを見た青年は半分安心し、半分残念そうにそうか、と呟いた。ハルがずっと自分の顔を見つめていることに気がついた青年がまた問いかける。
「どうした、俺の顔に何か変なモノでも付いてるか」
「……その」
純粋な疑問が声に現れていた。
「ゴーグルは、外さないのか」
その言葉を聞きたくなかったのだろうか、青年の顔が少し曇った。しかしハルがその意味を掴む前に青年の顔は晴れ、またあの調子で言葉を踊らせる。
「逆に訊こうか、何でだと思う?」
ハルが首を横に振ったのを見ると青年は棚の腕時計の一つを弄り始めた。
「あの扉にヒントが書いてあったんだが、読んでないなら分からないだろうな。まあお前の身長じゃ読んでるうちに首痛くなりそうだし」
青年の顔は見えない。
「俺のもう一つの名前さ。EXECUÇÃO(エゼクサオン)、意味は知らなくてもいい」
明るい調子なのに何故だろうか、部屋の空気に不穏な香りが漂う。ハルは少し身構えた。
「訳分からんこと言ってごめんな。まあ早い話、ゴーグル外せばいいんだよな」
青年は背を向けたままゴーグルを外し始める。ハルはこれから起こるであろう途轍もない悪い何かに対し、緊張を走らせる。
青年はゆっくりと少年の方に振り返った。
靡く痛いくらいの橙の布。
ハルの目が青年の目の彩を捉えたその瞬間。
少年の身体は硬直した。
「_____綺麗、だ」
「へえ、良い名前だな。懐かしい感じがする」
よろしく、というように青年は笑いかけた。もっとも、見えているのは口元だけでゴーグルの下の瞳が何を映しているのかなど分かりもしない。
「ところでさ、扉に書いてあった文字、読んだか?」
何の事だろうかとハルが首を傾げる。それを見た青年は半分安心し、半分残念そうにそうか、と呟いた。ハルがずっと自分の顔を見つめていることに気がついた青年がまた問いかける。
「どうした、俺の顔に何か変なモノでも付いてるか」
「……その」
純粋な疑問が声に現れていた。
「ゴーグルは、外さないのか」
その言葉を聞きたくなかったのだろうか、青年の顔が少し曇った。しかしハルがその意味を掴む前に青年の顔は晴れ、またあの調子で言葉を踊らせる。
「逆に訊こうか、何でだと思う?」
ハルが首を横に振ったのを見ると青年は棚の腕時計の一つを弄り始めた。
「あの扉にヒントが書いてあったんだが、読んでないなら分からないだろうな。まあお前の身長じゃ読んでるうちに首痛くなりそうだし」
青年の顔は見えない。
「俺のもう一つの名前さ。EXECUÇÃO(エゼクサオン)、意味は知らなくてもいい」
明るい調子なのに何故だろうか、部屋の空気に不穏な香りが漂う。ハルは少し身構えた。
「訳分からんこと言ってごめんな。まあ早い話、ゴーグル外せばいいんだよな」
青年は背を向けたままゴーグルを外し始める。ハルはこれから起こるであろう途轍もない悪い何かに対し、緊張を走らせる。
青年はゆっくりと少年の方に振り返った。
靡く痛いくらいの橙の布。
ハルの目が青年の目の彩を捉えたその瞬間。
少年の身体は硬直した。
「_____綺麗、だ」