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 ハルは無言で手を振り見送ると、言われたように歯車を回し、扉を開けた。
 思った通り非常に重たい扉を開けた先に広がる部屋には、意外な事に誰も居なかった。人の居ない沈黙。生活感はあるものの人の気配がせず不気味だった。
 恐る恐る部屋の中ほどまで歩く。この部屋を中心に三方にまた廊下が繋がっているが、部屋の主もとい相棒が居ないのに勝手に漁るわけにもいかない。取り敢えず当たりを見回すが、これといっておかしいものは無い。机、椅子、開きっぱなしの本、ハルと同じ程の高さの棚の上には細かな金属の細工が施された腕時計が雁首揃えて並んでいる。
 こつん、とハルのうなじに何か小さな硬いものが当たった。素早く振り向くが誰も居ない。気のせいかとまた棚を見ようとした刹那、
「よお」
 逆さまにぶら下がっている赤髪の青年の顔がそこにあった。青緑色のレンズのゴーグルを掛けていて左の髪の一房から橙色の帯が下がっている。
 呆気にとられてハルが立ち尽くしている様を見て、青年は拍子抜けしたように言った。
「あれ、そんなに驚いてない?__まあいいや」
 ぱっと天井からぶら下がっていた縄から飛び降りる。
「よっ、と」
 橙色の帯が翻る様は何処かで見たことがあるような。
「んじゃ改めて。俺はアマネセル。お前の相棒だ」
 ハルが訝しむように睨みつけているのを見て青年は困ったように笑う。
「いや悪かったって、気直してくれよ」
 睨みつけるのをやめたものの、ハルはまだ疑いの目を向けている。もう気にせずに青年は少年に問う。
「で、お前の名前は?」
 ハルの瞳が少し揺れた。喉の当たりを押さえてから、まるで初めて話すようにおずおずとそれを口にした。与えられた偽りの名を。
 彼をここに留める縁となる名を。
「____ハル」
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