迷い子の足跡
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な
「いや〜まさか持ち出し用の救護道具を全て落としてしまうなんて...この山が忍術学園の近くの山助かったよ」
「目的の人物を間違えるとは...まだまだ鍛錬が足りん!」
どこか呆れ混じりの会話が耳に届く中、私は、潮江文次郎、善法寺伊作と名乗った彼らと一緒に、木々の生い茂る山道をゆっくりと降りていた。
——いや、正確には“おんぶされながら”だ。
……なぜ私は、初対面の男の子におんぶされながら山を降りているんだ?
木漏れ日がちらちらと揺れる、苔むした斜面の途中。数刻前の出来事が、まだ頭の中に生々しく蘇る。
──遡ること、四半刻前。
「……失礼ですが、貴方は一体どこから来たんですか?」
背後から穏やかな声がかけられた。振り返ると、伊作と呼ばれた少年がまっすぐにこちらを見つめていた。目には静かな好奇心と、それに混じるほんの僅かな警戒心が滲んでいる。
彼の言葉に返事をする前に、文次郎が勢いよく口を挟んだ。
「おい伊作! 赤の他人に学園関係者だと明かすとはどういう事だ!」
「仕方ないだろ。僕たちの実習に巻き込んでしまった訳だし、明らかに平民や戦禍から逃れてきた人の様子でもない。何かこう…異質な雰囲気を感じるんだ。」
伊作君はそう淡々と答え、文次郎君も渋々納得したように黙る。私は震える声で続けた。
「信じて貰えないと思うんですが……記憶がないんです。何でこんな山奥にいるのか、目が覚める前何してたかとか。気がついたら、荷物も何もないままこんな所にいて…」
「っ、そんな事が……?」
「にわかには信じ難いが…」
自分でも何が起きているのか分からないのだから、3人に納得して貰える筈がない。向けられた視線がどんなものか見るのが恐ろしくて、彼らと目を合わせる事が出来なかった。
ざわざわと恐怖心を煽るように、俯いた私の遥か真上で木々が騒めく音が聞こえる。初めは心が癒された山の自然達も、今は不安感を増幅させる因子ばかりだった。
知らない場所、常識の通じない環境、疲労、喉の渇きが重なり、いよいよこの状況に気が狂いそうになり、半ばパニックになりながら私は早口で捲し立てた。
「あの、ここは何処なんですか!?服装も違うし、喉が張り付いて痛いし、もう、..ッ、何もわかんないんです...…」
一刻も早くこの場から逃げたくて私は立ちあがろうとしたが、唐突に足元に鈍い痛みが走り、顔をしかめてしゃがみ込んだ。
「……ッつ!」
「「どうした!?」」
「もしかして、足を怪我してる……!?」
伊作君がすぐさま膝をつき、私の足元に手を伸ばす。驚いたように目を見開いた彼が、すぐに真剣な表情へと変わる。
「かなり腫れてる……ひねったんだね。応急処置くらいはできるけど……持ち出し用の救護道具、さっきの騒動でどこかに落としちゃって」
「……忍術学園まで連れて帰った方が早いな。保健室なら備えも整っている。小平太は、その捕えた姫君を元いた城に送り届けてくれ。」
「ああ文次郎、言われなくてもそうするつもりだ!」
「うん、そうしよう。えっと…」
私はここで、ようやく名前を明かしていない事に気づいた。
「えっと、羽衣石、千花です。」
「千花さん。歩けますか?」
「……すみません、無理、かも」
長時間歩いた事による身体の疲労と脚の痛みで、私の体力は限界だった。素直にそう答えると、文次郎君が無言で私の背中に手をまわし、軽々と背負い上げた。
「ちょ、えっ……!?」
「黙って乗ってろ。下手に動かれて悪化でもしたら面倒だ」
「大丈夫ですよ、ここから学園まではそんなにかからないですし、すぐに僕が治します!」
彼の背中は意外と広くて、ほんのり温かかった。頬が少し熱くなるのを自覚しつつも、私は抗議することもできず、ぎこちなく背に身を任せた。
「…じゃあ、お願いします。」
――こうして、私たちは忍術学園へ向かって山を降りていくことになったのだった。
木々の隙間から差す光は少しずつ傾き始めていて、遠くの空が茜に染まりかけている。
(いったい私、どうなっちゃったんだろ……)
不安はまだ胸の奥に残っていたけれど、それでも——背中の温もりと、足元から伝わる確かな歩みに、ほんの少しだけ身体を預ける事が出来た。
「いや〜まさか持ち出し用の救護道具を全て落としてしまうなんて...この山が忍術学園の近くの山助かったよ」
「目的の人物を間違えるとは...まだまだ鍛錬が足りん!」
どこか呆れ混じりの会話が耳に届く中、私は、潮江文次郎、善法寺伊作と名乗った彼らと一緒に、木々の生い茂る山道をゆっくりと降りていた。
——いや、正確には“おんぶされながら”だ。
……なぜ私は、初対面の男の子におんぶされながら山を降りているんだ?
木漏れ日がちらちらと揺れる、苔むした斜面の途中。数刻前の出来事が、まだ頭の中に生々しく蘇る。
──遡ること、四半刻前。
「……失礼ですが、貴方は一体どこから来たんですか?」
背後から穏やかな声がかけられた。振り返ると、伊作と呼ばれた少年がまっすぐにこちらを見つめていた。目には静かな好奇心と、それに混じるほんの僅かな警戒心が滲んでいる。
彼の言葉に返事をする前に、文次郎が勢いよく口を挟んだ。
「おい伊作! 赤の他人に学園関係者だと明かすとはどういう事だ!」
「仕方ないだろ。僕たちの実習に巻き込んでしまった訳だし、明らかに平民や戦禍から逃れてきた人の様子でもない。何かこう…異質な雰囲気を感じるんだ。」
伊作君はそう淡々と答え、文次郎君も渋々納得したように黙る。私は震える声で続けた。
「信じて貰えないと思うんですが……記憶がないんです。何でこんな山奥にいるのか、目が覚める前何してたかとか。気がついたら、荷物も何もないままこんな所にいて…」
「っ、そんな事が……?」
「にわかには信じ難いが…」
自分でも何が起きているのか分からないのだから、3人に納得して貰える筈がない。向けられた視線がどんなものか見るのが恐ろしくて、彼らと目を合わせる事が出来なかった。
ざわざわと恐怖心を煽るように、俯いた私の遥か真上で木々が騒めく音が聞こえる。初めは心が癒された山の自然達も、今は不安感を増幅させる因子ばかりだった。
知らない場所、常識の通じない環境、疲労、喉の渇きが重なり、いよいよこの状況に気が狂いそうになり、半ばパニックになりながら私は早口で捲し立てた。
「あの、ここは何処なんですか!?服装も違うし、喉が張り付いて痛いし、もう、..ッ、何もわかんないんです...…」
一刻も早くこの場から逃げたくて私は立ちあがろうとしたが、唐突に足元に鈍い痛みが走り、顔をしかめてしゃがみ込んだ。
「……ッつ!」
「「どうした!?」」
「もしかして、足を怪我してる……!?」
伊作君がすぐさま膝をつき、私の足元に手を伸ばす。驚いたように目を見開いた彼が、すぐに真剣な表情へと変わる。
「かなり腫れてる……ひねったんだね。応急処置くらいはできるけど……持ち出し用の救護道具、さっきの騒動でどこかに落としちゃって」
「……忍術学園まで連れて帰った方が早いな。保健室なら備えも整っている。小平太は、その捕えた姫君を元いた城に送り届けてくれ。」
「ああ文次郎、言われなくてもそうするつもりだ!」
「うん、そうしよう。えっと…」
私はここで、ようやく名前を明かしていない事に気づいた。
「えっと、羽衣石、千花です。」
「千花さん。歩けますか?」
「……すみません、無理、かも」
長時間歩いた事による身体の疲労と脚の痛みで、私の体力は限界だった。素直にそう答えると、文次郎君が無言で私の背中に手をまわし、軽々と背負い上げた。
「ちょ、えっ……!?」
「黙って乗ってろ。下手に動かれて悪化でもしたら面倒だ」
「大丈夫ですよ、ここから学園まではそんなにかからないですし、すぐに僕が治します!」
彼の背中は意外と広くて、ほんのり温かかった。頬が少し熱くなるのを自覚しつつも、私は抗議することもできず、ぎこちなく背に身を任せた。
「…じゃあ、お願いします。」
――こうして、私たちは忍術学園へ向かって山を降りていくことになったのだった。
木々の隙間から差す光は少しずつ傾き始めていて、遠くの空が茜に染まりかけている。
(いったい私、どうなっちゃったんだろ……)
不安はまだ胸の奥に残っていたけれど、それでも——背中の温もりと、足元から伝わる確かな歩みに、ほんの少しだけ身体を預ける事が出来た。
