傘を忘れて
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「……あれ?山口くん?」
その日私は、生徒会で帰りが遅くなっていた。
予定よりも書類ひとつにかかる時間が長くて、計画倒れする前にできることを片付けていたから。
更に私を待ち受けていたのは、会長の家鍵探し。正直書類処理よりも面倒臭かった。
そんな最終下校も疾うに過ぎて誰もいなくなった通学路に、学校とは別方向から現れたずぶ濡れの彼。
「あれ?苗字さんこそ、遅かったんだ?」
「私は生徒会が……じゃなくて!傘も差さないで風邪引いちゃうよ?」
走って近寄れば彼を引き寄せて傘の中へいれる。
とても驚いたように目を丸くしている彼をよそに、タオルで髪を拭いてあげればみるみるうちに顔を真っ赤に染めていった。
「い、い、いいって!そんなことまでしてくれなくて!」
「これくらい遠慮しないの!……それで、本当に何してたの?こんな時間に、こんな姿で。」
全く思い当たる節がないから心配になって眉を下げれば、赤くなった頬を冷ましながら。
「誰にも言わない?」
と尋ねられる。
答えるまでもなく頷けば、嬉しそうに笑ってくれた。
「実は、サーブの練習をしてたんだ。」
「サーブ?」
「そ。試合が始まって一番最初に打たれる、あれ。」
良心なのか知らないけどそれぐらい知ってるよ、と頬を膨らませばまたくすくすと笑って。
「これ、誰にも言ってないからみんなにはナイショね?もちろん、ツッキーにも。」
人差し指を口元に当てて、意地悪く微笑むから。
「う、うん。」
思わず胸が高鳴ったなんて。
しとしとと浸る雨音の中で、二人だけの秘密をつくった。