傘を忘れて
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「おーい苗字!ちょっと待て……っくしょい!」
「西の、や!?な、なにしてるの?大丈夫?」
雨に濡れ、ぺたりと顔へ張り付いた髪を掻き上げながら私を呼び止める西谷。
長く外に出て居たのかいつもセットしていた髪型はすっかり崩れ、寒そうにくしゃみまでしている。
「これ、忘れてただろ?」
そういって渡されたのは、ずぶ濡れになったキーケース。
「あ、私の……?って、何してんのはこっちの台詞だよ。傘も差さないで……まさか、これ渡すためだけに?」
何も言わずに頷くと、ニッと笑って私の手に鍵を渡し帰ろうとしてしまう。
「まっ、待って!」
今度は私が呼び止め、手を掴む。
雨に冷え切った手はぴくりと跳ねて、丸い目が私を捉える。
「これから練習に戻るの?」
「お、おう。」
「送ってってあげる。……ありがとうね、寒かったでしょ。」
腕を引いて西谷を傘に入れるとタオルを差し出す。
受け取って髪を拭く彼と視線が絡んで、私が微笑めば頬を染めて顔を逸らした。
「風邪引いちゃったら元も子もないでしょ。……折角、かっこいいプレーするんだから。」
彼の試合をこの前、偶然テレビ越しに見掛けた。
バレーのことはよくわからないけど。真摯にボールをおう瞳を、かっこいい、と思っていた。
雨の日。普段とは違う姿を見つけてしまった私は、雰囲気に絆されて本音をこぼしてしまう。
……当の目の前の彼は、染めた頬を更に赤らめていた。
「んなこと、好きなやつとかに言ってやれよ。」
勘違いすんだろ、と頬を掻いて。
「……西谷だって、好きでもない人のためにこんなことして。女の子はそういうさりげないのとか、弱いんですよー。」
冗談っぽく笑った、つもりで見詰めた先には真剣にこちらを見る瞳があって。
「好きじゃなかったら、ここまでしねえよ。」
真摯な瞳に、吸い込まれてしまう。
ひかれた腕に驚いて、傘を落として。
冷たい腕と雨に包まれ、体温を落としていった。