傘を忘れて
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「「あ、傘忘れた。」」
誰もいない昇降口に零れた、私と影山の声。
不貞腐れた彼に私は苦く笑って、雨が止むのを待つ。
「ックソ、なんでこういう時に限って持ってねえんだよ……苗字、いっつも折りたたみ持ってただろーが。」
「し、仕方ないじゃない!行きは晴れてたから弟にかしちゃったのよ……こう言うことだったのかあ……」
ぶつくさと二人で首を垂れて、雨音に耳を澄ます。
湿った空気に混ざる整った呼吸、誰もいないこの場には私と彼と二人きりで。
「……でも、たまにはこう言うのもいいかも。」
横にいる愛しい姿に見蕩れていると思わず本音が洩れてしまい、ふとかち合った視線に恥ずかしくなって目を逸らす。
「んだよ、その反応。……勘違いすんぞ。」
じりじりと距離を詰められて、振り向けば赤い顔がそこにはあった。
「……私こそ、そんな顔されたら期待しちゃうよ。」
「……いいんじゃねーの。」
短く言葉が交えば、彼の汗ばんだ掌が重なって。
逃げられない雨の下、この先をどう進めばいいかわからない私達はただその手を握っていた。