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深夜32時、デスクワーク終わりの朝日は酷く瞼に染み付いた。
「……けいじ、」
私にとっては納期後の金曜深夜、彼にとっては穏やかな土曜の朝。
仕事部屋である自室からリビングへ向かうと、休日にしては少し早起きした彼がテレビを眺めながら寛いでいた。
その姿を見詰めていると、文字通り見た目も心もボロボロの自分の口から縋る様に愛おしい名前が零れ落ちる。
「名前、お疲れ様?」
「うん、間に合った。」
「……何かあった?」
ソファに腰掛ける彼の隣に座って、その肩に頭を預ける。
ふわり鼻腔に届く彼の匂いに目を細めて、緩く首を振った。
「……ただ、ちょっと寂しくなった。」
「最近ずっと忙しそうだったもんね。」
俺も、なんて。慰める為か彼の本心か私にはわからない。彼もどちらでも良いのだろう、ただそう呟いたように思えた。
でもその言葉は渇いた心に染みるにはあまりにも充分で。目の奥がじんと熱くなるのを感じながら瞳を閉じる。
京治は私の頭を優しくひと撫ですると、顔を覗き込んで少し悪戯に笑う。
「俺二度寝しようかな。名前もどう?」
「うん……まだ寝ないけど、いいかも。」
生活時間が納期に左右される私は、基本的には生活リズムが定まっていない。
今日も起床時間が夜だったのでまだあまり眠くはなかった。
でもこれは、私と彼との間の「合図」。
早いところの「イチャイチャしましょう」だった。
私の唇へ小さく唇を落とすと、手を引いて寝室までエスコートしてくれる。その扱いには高校時代から付き合っている今となってもまだ擽ったくて。胸の奥を淡く刺激されるような心地に、表情筋が変に強張ってしまう。
きっとそれが彼には照れている、とばれている。嬉しそうに頬を緩ませてこっちを一瞥している。
嗚呼、これは。「名前が愛おしくて堪らない」ってカオだ。
そんな表情にまた胸奥を擽られた。
「ほら、おいで。」
彼は先に布団へ入ると両腕を広げてそう囁く。
いつものように隣にお邪魔して敷かれた腕に頭を乗せて、ぴたり隙間なくくっ付くと閉じ込めるように抱き締められる。
軽くその胸板を撫でて、バレーを辞めた今でもまだ衰えていないんだなあ。なんてぼんやり考えながら今度は頬擦りをする。少し上を見遣ると彼は懐いた猫を可愛がるように目を細めていた。
「改めてお疲れ。今回結構時間かかってたね?」
「うん、なんか納得いかなくて。久々に時間忘れてた……」
「見事に生活時間、俺と真逆になったね。」
「申し訳ありません……家事も何も出来ず……」
「はは、別に責めてるんじゃなくて。」
そう笑って指で私の髪を梳く。その手の甲に手を添えて、指で撫でながらじっと彼の手を見詰める。
高校の頃、この指先から放たれていた丁寧なセットアップを思い出す。普段文字を書く手を、コップを持つ指を、本を捲るその手つきを。
昔からずっと、この手が好きだった。
「……綺麗。」
そう呟いて指を絡めて、繋ぐ。
彼は呆れたようにまたか、と言いたげな瞳で。私の手を握り返すと指先で手の甲を撫でた。
「綺麗なんて、男の手に使う言葉じゃないよ。」
「そんなことない。私が綺麗って思ってるんだから、私の思ってること京治が勝手に否定しないでよ。」
「なんて横暴な。」
「……大好きなの、京治の手と、指。……あ、手首も好き。」
形のいいそれらを目に焼き付けながら、甘えるように唇をくっ付けていく。
そうしていると、言うだろうな。と考えていた言葉が案の定降ってきた。
「……俺自身は?」
彼もきっと、自分がそう振ることを私が予測していると踏んでいるのだろう。試すような視線で最早笑っている。
「……愚問。」
繋いでいない手でふに、と彼の頬を柔らかく摘む。
そのまま私達は笑いながらどちらからともなく唇を重ねた。
そうして触れ合っていると、さっきまでボロボロだった心が嘘みたいに幸せで満ちる。
……それと同時に、あまり言葉で示したくない欲求も湧き上がるわけで。
交わった視線から彼は、そんな私の気持ちも読み取ったのだろう。
「……まだ眠くない?」
「うん。」
「疲れは?」
「京治が取ってくれるんでしょ?」
「もっと疲れちゃうかもよ。」
「……いいよ、その時はその時。」
「……ふふ。」
確認のような言葉の後も、触れ合い方は変わらない。
でもきっと彼は私の気付かない間に、その手つきを変え、目付きを変え、熱く求め合う様仕向けてくるはずだ。
私はそれで構わない。いいや、それでいい。だってその為の確認だったのだから。
深夜34時、私達はそうして甘く蕩けていった。
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