勇者の呟き―CAN YOU CALEBRATE?―



よう。


久し振りだな、クリフト。

この寒いのにこんな山奥まで、お前ひとりでよく来たもんだ。

ああ、俺は元気にやってるよ。

ここも緑が戻り、すっかり綺麗になった。


………。


で、何の用だ。

なんだよ、シンシア。

久し振りに会った大切な仲間に対して、その態度はない?

……そりゃ悪かったな。

遠いサントハイムから、本当によく来てくれた。会えて嬉しいよ。

これでいいか。

なんだよ、シンシアが謝ることなんてないだろ。

女じゃあるまいし、いくら久し振りだからって、手に手を取って再会を喜び合ったり出来るか。

何笑ってるんだ、クリフト。

相変わらずですね、勇者様だって?

俺はもう勇者なんかじゃない。山奥の田舎で暮らす、ただの木彫り職人だよ。

だから勇者って呼ぶな。これからは名前で呼べ。

そうだ、名前で。

ほら、呼んでみろよクリフト。

「様」はいらない。

呼び捨てでいい。

………。


……あのな。

たかが名前ひとつに、どもりすぎだろ。それに赤くなるなよ、気持ち悪い。

ああ、もうなんでもいい、勇者様でもなんでも。

で、なんの用なんだ。

まさかこの冬にたったひとりで、こんなところまで遊びに来たわけじゃないだろう。

……なんだって?

聞こえねえよ。もっとはっきり、大きな声で言え。


ケケケケコ?


……お前、ニワトリの物真似でもしに来たのか。

ひょっとしてあのエッグラチキーラと、久し振りにまた戦いたくなったなんて言うんじゃないだろうな。

なら付き合ってやってもいいぜ。山奥に引きこもっちゃいるが、毎日剣の稽古は欠かしたことがない。

時々ライアンがやって来ては、腕が鈍ることがないようにと、散々しごいて行くからな。

またいつこの世界に、邪悪が訪れるとも限らない。

俺はその時のための、大事な切り札なんだそうだ。

鍛えた剣技を披露する機会が来ないことを祈りながらも、決して日々の鍛練を怠るなと、いつものおっかない顔で言われたよ。

今なら俺達ふたりだけでも、あのニワトリタマゴ野郎なんか目じゃないぜ。

よし、早速今から行くか。シンシア、俺の剣どこに置いたっけ。

ん?

なんだ、違うのか。

それなら早く言えよ。

じゃあ一体何しに来たんだ。

珍しくアリーナも一緒じゃないし、何か悩みごとの相談か。

それです、それです?

そうか、お前たち二人も色々あったが、ついに破局したんだな。残念なことだ。

痛てえっ!!!

わ、解ったよ、シンシア。

冗談だよ。悪かったよ。

ちくしょ……いてて……、おい、もったいぶらずにいいかげんさっさと言え!

なんだって?

ケコ?




……結婚?




結婚するのか?アリーナと?


直接自分の口で俺に伝えたくて、急いでひとりでここまでやって来た?


………。



そうか。


……なんだよ。


それだけですか?って、他になにがあるんだ。

よかったじゃないか。

アリーナと結婚するってことは、王になると言うことだろ。

つまり教会を離れるってことだ。

これでやっと、お前の神様神様うるさい繰り言を、聞かなくて済むようになるな。

例えどこにいようとも、わたしの信仰の心は変わらない?

ふん、そりゃ結構なことだ。

それじゃあな。

待って下さいって、しつこいな、なんだよ。

お前と違って俺は忙しいんだ。

明日までにブランカの城下町で売る、笛と机を仕上げなきゃならない。

それじゃ行く。急がないんならゆっくりして行け。



……そうだ、クリフト。



ひとつ言い忘れた。





おめでとう。



幸せになれよ、必ず。



うん、俺はもうとっくに幸せだ。

お前に心配してもらうまでもない。

じゃあな、また。

ああ、いつでも来い。

俺はここにいる。




俺はいつだって、

ここにいるよ。




―FIN―


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