王女と妖精の女同士の内緒の話
「コクオウヘイカ……」
シンシアと呼ばれた妖精族の少女は、ぎこちなく呟いた。
「国をまとめるお仕事をする、いちばん偉い王様のことね。それは、どうしてもクリフトさんがやらなきゃいけない役目なの?」
「本来直系の王族はわたしだから、わたしが女王になるべきなんだろうけれど、暴れ馬の異名を持つお転婆姫の即位は重臣会議満場一致で否決されたらしいわ」
「優しくてよく気が付くクリフトさんは、きっと王様のお仕事に向いているってことなんでしょうね」
シンシアはにこにこと笑って言った。
「他の誰にも出来ないお仕事に、自分を生かして取り組むなんて素敵だわ。素晴らしい人と結ばれることが出来てよかったわね、アリーナさん」
「う……うん」
「サントハイムは新しい王様を得て、これからもっと素晴らしい国になるのね。
婚礼の日が来るのが、とってもとっても楽しみだね」
「……」
アリーナはシンシアを見つめた。
長い戦いの末、世界が救われたと同時に神の奇跡で地上に還って来た、勇者の少年の幼馴染みであり、恋人でもある精霊族の少女。
あどけない清らかさがそのまま形を取ったような姿は、まるで童話のフェアリーのように愛らしく、そうやって花束を抱えていると、まるで彼女自身が一輪の薔薇にも見える。
ある一定の成長を遂げると、まったく老化しなくなるという長寿種族エルフだけが持つ、繊細で蠱惑的な、創造神から授けられた天性の美貌。
ルビーの涙を流すという緋色の瞳は、長いまつ毛に縁どられてこぼれ落ちそうに大きく、あやういほど細い手足は、力に自信のあるアリーナが掴めば、ぽきりと容易く折れてしまいそうだ。
「いいな、シンシアさんは」
アリーナは思わずため息をついた。
「綺麗で可愛らしくて、儚げで……あいつと並んでいたら、まるきり天使の恋人同士にしか見えないわ」
「そうかな。でも天使と違って、わたしみたいな大地のエルフに空を飛ぶことは出来ないの」
「華奢で肌も真っ白で、いかにも汚れを知らない美少女って感じがするし」
「花を植えて畑を耕して、毎日泥だらけになるけど、お風呂はちゃんと入っているよ。わたし」
アリーナは吹き出した。
「なあに?なにがおかしいの?」
「なんでもないわ。シンシアさん、あなたってほんとに素敵。
……ね、聞かせて。ふたりきりの時、いつもあいつと何を話してるの?」
「え?」
アリーナは悪戯を企む子供のように、目を輝かせた。
「あなたみたいな天然……いいえ、独特の空気感を持つ人が、あの無愛想なあいつと一体どんな会話を交わしているのか、とっても興味があるのよ」