愛の爆弾



アリーナは目を閉じた。

心臓の音が耳元で聞こえる。

しかもそれは自分のものじゃない。

いとおしさに突き動かされるまま、きつく押し付けられる身体は、時々重い。

なめらかで引き締まった、緩みの一切ない男の人の広い身体。いい匂い。

「姫様、お慕いしています」

かすれた囁き声。

「この世でただひとり、貴女様だけを」

クリフト。

わたしの好きなひと。






~愛の爆弾~






はっ、はっ、と息を弾ませ、クリフトは身体を離すと枕にうつぶせるようにして倒れ込んだ。

傍らでアリーナは仰向けに横たわり、半ば呆然と、巨大なベッドを覆う天蓋のレースの蔓草模様を見つめている。

「……」

お互い呼吸を整えるのが精いっぱいで、今はそれ以上にやるべきこともない。

およそ半刻ほどの、我れを忘れた恋人同士のめくるめく時間。

クリフトの動くままに翻弄されて、翻弄されて、瞼の裏で花火が打ち上がった。それも何度も。理性も抑制も、全てを一瞬で吹き飛ばす灼熱の七色の烈火。

(わたし、嵐にさらわれたわ)

ひとたびこんな感覚を知ってしまったら、もう元の世界へは戻って来られないかもしれない。

いいえ、それよりなにより、その嵐のさなかに自分がどんなふうに振る舞ったかを思い返すと、気が遠くなるほど恥ずかしくてもうクリフトの顔を見ることが出来ない。

「姫様」

羞恥で内側を噛みしめたアリーナの頬に、ぎゅっと堅いなにかがあたる。

それと同時に甘い白檀の香り。彼の鎖骨。抱きしめられている。

「好きだ」

触れる肌がほんのり汗ばんでいる。しっとりしてとても心地良い。まるで下ろしたての真新しい絹のよう。

自分以外の誰かの肌が、こんなにあたたかくて心地良いものだったなんて知らなかった。知らなかったんだよ、わたし、クリフト。

「人の身体の中には、爆弾があるのね」

アリーナがぽつりと呟くと、クリフトはびっくりしたように目を見開き、頬を赤くした。

「それは、爆発……、したんでしょうか」

「これまでのわたしのなにもかもが、たったいま全部ばらばらになっちゃった気がする」

「なっていませんよ、きっと」

クリフトはアリーナのふっくらした両頬を手のひらで包み、優しく、そしてほんの少し悪戯そうにほほえんだ。

「だって、それは」

空中で放射状に弾けて王冠を描いては、再び水面に還る無形の水のように、終わったかと思うとまた振り出しに戻る五感の奇跡。

爆弾は愛し合う者たちだけの魔法、発火と爆発を永遠に繰り返す。

「確かめてみましょうか。もう、一回?

姫様、貴女のお望みのままに」

額にキスをしてクリフトがそっと囁くと、アリーナはぽっと桜色に頬を染め、返事の代わりにシーツを引き上げて大慌てで顔を隠した。




-FIN-

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