いつか星が降れば
星が流れる。
紺色の夜空に鮮やかな粒子を撒き、月と戯れる金色の光の糸。
「でねクリフト、今夜はどんな夢を見たかって言うと、
……あち、あちち」
「熱いからゆっくり飲んで下さい、気をつけて」
蜂蜜をたっぷり落とした温かな紅茶を手渡すと、アリーナは嬉しそうに飲み、添えてある焼き菓子もひとくちで食べてしまった。
「今頃カーラさんが、温かいミルクをこしらえてくれているでしょうに。
城に戻られたらちゃんとお詫びをして、それから歯磨きもするんですよ」
「カーラの作るホットミルクは、甘くないから好きじゃないもん」
アリーナはふんと肩をそびやかした。
「それに、わたし今夜はお城には帰らないの。ここでクリフトと寝るわ」
「え、ええっ?!わっ、熱ちーっ!!」
クリフトは叫んで、木のカップをつるりと床に取り落としてしまった。
「もう、なにやってんのよ!どじねえ」
「も、も、申し訳ありませ……い、いえ、それより」
目を白黒させて、しどろもどろになるクリフトを、アリーナは怪訝そうに見た。
「なあに」
「ど、どうして急に、そのようなことをおっしゃるのです?こ、こ、こちらでお休みになられるのは、さすがにちょっと……その」
「……だって、クリフトがいなくなっちゃう夢を見たんだもの」
アリーナはうつむいてぽつりと呟いた。
「え?」
「大きくなって、たくさんお勉強して、一人前になったクリフトが神官から偉い司祭様に代わって、どこか遠い国の寺院へ布教のために旅立ってしまう夢よ。
さようなら、姫様。そうにっこり笑って、お前はわたしを置いて行ってしまった。
そんなの……、そんなの許せないわ!」
まるで実際に起こった出来事を思い出したように、アリーナは突然眉を吊り上げてクリフトを睨んだ。
「よくもわたしをひとりぼっちにしたわね!クリフトの馬鹿!大嫌いよ!」
「いたた、痛い!ち……ちょっと待って下さい!それは夢の中の話でしょう」
拳を振り上げたアリーナは、きょとんと目を見開いた。
「あ、そうか」
「……」
クリフトはため息をついた。
「心配なさらなくても、わたしはどこにも行きませんよ。
そもそもわたしのような未熟者が、上級職である司祭になどなれるはずもありませんし、時折巡礼の旅に出ることはあっても、愛するサントハイムの地を去ることなど、到底考えられませんから」
「そんなの、解らないじゃない」
アリーナは疑い深い目でクリフトを見た。