いつか星が降れば
「いつか星を数えて、それと同じくらいあなたを好きだって言いたいな。
きらきらこぼれる黄金色の光を全部集めて、プレゼントすることが出来たなら」
窓の外に広がる夜空を眺めながら、嬉しくてならぬように彼女が言うから、
わたしはつい悪戯心を起こして、足音を立てずに忍び寄り、後ろから華奢な身体を思いきり抱きすくめる。
姫様、覚えておいて。
星の光も素敵だけれど、わたしは貴女の方がいい。
囁いて肩を引き寄せて、そうっとこちらを振り向かせたなら、遠くにあったはずのあの星々のきらめきは、彼女の瞳の中で無限に輝いてわたしを捕まえる。
ほら、もう見つけた。
貴女がわたしの宇宙。
~いつか星が降れば~
「きぃら、きぃら、ひかるー」
舌ったらずな歌い方で、教会の床に座り込んだ少女は、懸命に声を張り上げる。
「おーそーらーの、ほしよぉ」
そこまで歌うとぴたりと口をつぐみ、眉間に可愛らしい皺を寄せて、しばし考え込んでしまう。
(「瞬きしては」ですよ)
傍らで同じように床に座り、歌詞の載った教本を手にした少年は、答えを教えようか迷ったが、少女が再び歌い始めるのを黙って待つことにした。
「うーんと、えーとお……」
腕組みして悩むふりをしながら、ちらりと横目でこちらを見てくるのは、SOSのサイン。
少年は小声でそっと「ま、ば、た、き」と唇を動かしてみせた。
「あっ、まばたきかぁ。
まーばたーき、してーはぁ」
少女は瞳を輝かせて、再び声を弾ませて歌いはじめる。
少年は微笑んで教本を閉じた。
細いおとがいを上げ、少女の歌声を乗せた風が開いた天窓から流れていくのを、蒼い瞳でそっと見守る。
クリフト15才。
アリーナ姫10才。
まだ世界は甘く柔らかい春の光に包まれ、小鳥のさえずりと花の芳香が人々の心を満たす、平和な日々が続いていた頃。
少年クリフトは成長期を迎えてめきめきと身長が伸び、つい数年前までアゲヒバリの雛のようだった高い声も、すっかり男らしく低く落ち着いたものに変わっていた。
ひょろりとした印象のあった腕や足には、しなやかで弾力のある筋肉が付き、女の子のように愛らしかった童顔は、みるみる引き締まって、知性と精悍な凛々しさをたたえた、美しい少年へと変貌しようとしている。
さなぎが羽化するように、著しく身体が変化するのは、大人へと成長するための大切な第一歩。
だが今それに、誰よりも複雑な感情を抱いていたのは、ほかならぬクリフト少年自身だった。