甘いもの



「仕方ありませんね。ではいったん休憩に致しましょうか。

ブライ様が来られるまで、あと1時間程あります。余り詰め込みすぎると姫様も疲れてしまいますでしょう」

「そうこなくっちゃ!」

わたしは指をぱちんと鳴らした。

「クリフト、大好き」

「昨日からまだ、10ページも進んでいないんですが……まあいいか」

クリフトは机に広げた本を集め、埃を丁寧に払ってから棚にしまうと、戻って来た。

わたしの座る椅子の横に来ると、ためらいなく床に膝を着き、視線の高さを同じにする。

澄んだ蒼い目には、さっきまでは見られなかった悪戯っぽい光が浮かんでいて、わたしは再び心臓の鼓動が早まるのを感じた。

「また、明日にでも続きをやりましょう。

それに姫様の勉強が進まないのは、わたしのせいでもありますし」

「ど、どういうこと」

「本当は貴方に聖書なんて必要ないと、わたしも思っているからです」

クリフトは微笑んだ。

すらりとした手が伸びて来て、わたしの頬に触れる。

「貴方は女神だから。女神に神の教えを説く必要なんてないでしょう。

そうじゃなくて、もっと他に教えてあげたいことならありますけれど」

「な……何」

「知りたいですか」

小さく呟くと唇の片側だけを持ち上げ、不意にクリフトは立ち上がった。

同時にハンモックに揺られるような、身体が浮き上がる感覚が襲って来る。

わたしは息を飲んだ。

古びた木の椅子ががたんと音を立てて倒れ、次の瞬間、わたしはまるで小さな子供のように、軽々とクリフトに抱き上げられていた。
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