クリフトの言い分



星がじっとこちらを見ている。

わたしを試すように。

胸の奥底から引っ張り出した、なけなしの勇気を確かめるように。


「全く、わけがわからないわ。お前に物真似の趣味があるなんて知らなかった」

「ははは……に、似てました?最近凝ってるんです、導かれし者たち物真似」

「残念だけど、そっちの才能はないみたいよ。一芸で人を笑わせようとするのは、パノンに任せておいた方がいいわね」

アリーナ姫は訝しげにわたしを凝視していたが、ため息をついて肩をすくめた。

「で、一体なんなの?大事な話って」

「そ、それはですね……」

(言え、言うんだクリフト!)

あなたが好きです。

子供の頃から、ずーーーっと好きだったんです。

……いや、子供の頃からはちょっと重いかな?アリーナ様が引いてしまうといけないし。

あなたが好きです。

最近やっと気づいたんです。

嘘だ嘘だ、こんなの。もし本当だとしたら、わたしの最近はあまりにも長すぎる!

(ああ、好きな人に気持ちを伝えるって、なんて難しいことなんだろう)

思い通りにいかないため息が、雲に乗って薄闇の中ちりぢりに離れて行く。

(たとえばおはようやこんにちは、おやすみのように、顔を見るたび「やあ姫様、好きですよ」「いい天気ですね。今日も大好きです」って、

まるで挨拶みたいに告げられる世の中だったら、いいのになあ……)

そのとき、肩の上にことんとなにかが乗った。

わたしは仰天して飛び上がりかけたが、ぎりぎりのところでなんとかこらえた。


咲き誇るスイートピーみたいな、めくるめく甘い香り。


アリーナ様の頭だ。






「好きだよ、クリフト」







不意に南の空がぴかっとまたたいて、眠る夜に光のベールをかける。

ささやきと同時に、夜空をふたつに割るまばゆい銀色の軌跡。

一瞬だけの輝きをわたしたちに誇ったひとしずくの流れ星が消えると、彼女はこちらを向いて、顔じゅう楽しそうな笑顔にした。

「ごめんね。先に言いたかったんでしょ?

でもあんまり焦れったくて焦れったくて、どうしても待てなくて、我慢できないからわたしから言っちゃった」





……神様。



もしあなたが今この光景を見ていてくださったのだとしたら、どこまでも情けなく不甲斐ないわたしを、ブライ様のようにこっぴどく叱るでしょうか?

「わ……わたしもです。

わたしも……、ですけど……」

体が弾けそうなほどの烈しい歓喜と、突然夕立ちに頭から打たれてしまったような、呆然とした脱力感の一騎打ち。

どんなに頑張ってもわたしの喉から出せなかった言葉は、水があふれるようにさらりと彼女の唇からすべり落ちて、

嬉しいのか情けないのか、喜びたいのか泣きたいのかもうわからなくて、引っ張り出したなけなしの勇気もどうすればいい?

言葉を失い、悄然とするわたしを覗きこんで、アリーナ姫はいたずらそうな鳶色の瞳をくるくる輝かせた。

「クリフト」

「は、はい」

「わたしもです。で終わりなの、お前は?

ねえ、気持ちが通じ合うのはゴールじゃないわ。

スタートでしょ。わたしたち、たったいまようやく、よーいどん!なのよ。

星が消えたら朝日が昇る。朝日が昇れば大地が目覚める。


さあ、わたしたち一体これからなにを始めるの、クリフト?」




言葉の意味が頭の中心に届いたとたん、息が苦しくなって、大きく吸い込もうと口を開けたら、彼女が耳をそばだてた。

だからわたしはその時やっと、鈍重な身体の中から必死でかき集めた勇気の行き場を見つけた。

彼女が笑う。

夏の日差しのように。

どうやら恋心を熱く温める真夏の太陽は、わたしの役目じゃないらしい。

「アリーナ様、言いたいことがたくさんあるんです。一晩じゃとても足りないくらいに。

だから、順番に聞いてください。……それから」



手に入れ損ねた初めての告白の代わりに、初めてのキスはわたしから。




もう隠しどり写真にこっそりキスしなくってもいいねと笑い、ずっこけたわたしを助け起こして、

始まったばかりのふたりの物語を確かめるため、アリーナ姫はわたしにもう一度優しく唇を寄せた。




―FIN―

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