クリフトの言い分
「なんじゃ、聖職者にあるまじきあの軽薄な答え方は!」
誰もいなくなった教会の祭壇。
くどくどと雨あられのように降って来る小言を、なんとかやりすごそうとして目を閉じる。
鷲鼻に魔道師らしい秀でた広い額(といっても、額と頭の境界線は判別不明だ)を持つ老ブライは、憤懣やるかたないといった口調で叫んだ。
「徳のかけらも見当たらぬ立ち居振る舞い、まったく嘆かわしいと言ったらない。おぬしの馬鹿さかげんには付き合いきれんわ。
それで十年近くも修行を積んで来た、サントハイム城直属の神官だという自覚はあるのか!」
「し、仕方ないじゃありませんか」
わたしは弱々しく反論した。
「真剣に悩んでいる方に対してその場かぎりの嘘など、わたしには申し上げることは出来ません。
どんなに軽薄に聞こえようとも、わたしの思う真実はあの通りなのです。
つ、つまり……信仰者であろうとも、時にはどうしようもなく誰かを好きになることもあると……」
「ふん!」
ブライはあざ笑った。
「だからといってお前は想う相手に堂々と告白することも出来ず、部屋でひとり隠し撮り写真を眺めては、うじうじめそめそと悩みに沈んでおるだけではないか。
クリフト、お前は暗い!暗いんじゃ!
そういう思いを恋とは言わぬ。執着じゃ。気色の悪い根暗男の妄執じゃ」
がーーーーん!!!
痛恨の一撃。
500ポイントのダメージ、ものの見事に撃沈。
「未だ世間の荒波を知らぬ若輩者に対して、あ、あまりにも手厳しいお言葉っ……で、ですが」
わたしは滂沱たる涙を袖でごしごしと拭いた。
「このクリフト、たったいま目が醒めました。
確かに神への信心以上に深く想うお方だというのであれば、恋い慕うお方に対してもっと堂々と!熱烈に!正面から!この気持ちをぶつけねばなりません。
さればこのクリフト、今日より根暗は返上!
熱い情熱ほとばしる真夏の太陽のような男となって、必ずや愛しい姫様のお心をがっちりゲットしてみせます!」
「ゲ、ゲット?!ゲット?!!」
(よおーーーし、やるぞーーー!!!)
握りこぶしが熱くなり、瞳の中で炎がメラメラと燃え上がる。
そうだ!いつだって神様は背中を押してくれるだけ。
なにかを掴むため、望みを叶えるために大切なのは、自分の足で踏み出すこと。自分の腕を伸ばすこと。
そんなのわかってたことじゃないか!
「目標はたったひとつ。姫様の気高いハート!
このクリフト、必ずや手に入れてみせますーーっ!!!」
(ああ、生まれて初めての経験だけど………、
熱いって、熱いってなんだか気持ちいい!!)
両手を突き上げて叫ぶわたしの後ろで、ブライ老人が途方に暮れた顔で杖をくるりと回した。
「……よほど頭を強く打ったかのう……。少し冷やしておくか。
………ヒャド」