SWEET PAIN


「こうして貴女と結ばれて、小さい頃から夢見ていたことが現実になって、まるでわくわくしながら読んでいた絵本の世界に、突然落とされたような心地なのです。

気が付くとわたしの横に、焦がれるほど憧れたフェアリーテイルの主人公たちがいる。

彼らが手招きして呼んでくれる。

でもそれを手にすれば、今度は失うことを恐れてしまう。

望んだ夢を手に入れて、それじゃあこれからわたしは、失くすことの恐怖に怯えて生きていかなければならない」

「食べ物や飲み物じゃあるまいし、わたしはそう簡単になくならないわよ」

「ある意味、食べ物や飲み物よりもあっけなく失われるものなのですよ、人の命とは。

わたしはそれを教会で何度も見て来た」

クリフトは自分の言葉に後悔したように、急いで口調を変えた。

「……いけませんね、このようなお話。今日はせっかくのふたりの初めての夜でした。

さあ、お眠りになって下さい。宴明けの朝は公務も休止で、午後まで自由に過ごしてよいそうです。

少し朝寝坊をして、遅い食事を一緒に取りましょう。それから散歩にも行きましょう」

「クリフト、やっぱりわたしたち、今からしよう」

クリフトは驚いてアリーナを見た。

彼女は頷いて微笑んだ。

「今、しなきゃいけないの。

わたしたちはひとつだってことを、ちゃんと繋がってるってことを解らなきゃいけないの。

ねえクリフト、わたしの体はいつかなくなるけど、絵本のおとぎ話の主人公なんかじゃない。

でも言葉はいくら重ねても儚くて、煙みたいに口にした先から消えてしまうのよ。

だからお前に今、まるごとのわたしの命を感じて欲しいの。


この体ごと、心ごと、今すぐ全部繋がりたいの」


彼女の唇が首に押しつけられたその瞬間、頭の奥で大きな音が鳴った。

それは抱えた想いをくるんだ殻が弾けた音か、それとも生した苔のようにくっついて離れない、怖れと不安が散った音か。

クリフトは体を起こしてアリーナを下に抱きしめ、彼女に覆いかぶさった。

呼吸をするのも忘れて夢中で口づけ、互いに苦しさに耐えきれなくなってやっと唇を離す。


そうだ、愛情は空気に似ている。


ないと生きていけなくて、必ずあるのに実在がひとつもつかめなくて、


時々吸って吐いて、取り入れ方と返し方が解らなくなる。


あるのかどうかも解らなくなる。



だから確かめる。



ちゃんとここにあって、確かな熱さで繋がっているということ。




共に生きている。





わたしと、あなた。





弾む息、シーツは波のように揺れて隙間を作り、いつしか枕さえ床に落ちた。

夜明けの薄明かりが壁に映しだすふたりの影が、折り重なったり離れたり、裏返ったりひとつになったり。

だがもちろん、それは不思議な国サントハイムの世紀のおてんば姫と生真面目な元神官のこと。

甘い初夜の顛末は、夢に描いた物語のように美しいというわけではなかった。




「い、痛い、痛いよ、クリフト」

「す、すいません……!」

「いいよ。平気。痛いけど嬉しいの。飛び上がって叫びたいくらい嬉しいの。

それに最初は誰だって痛くて、何回もこうするうちにだんだん覚えて行くものだって、マーニャが言ってたから」

「ど、どこまでもわたしたちには、マーニャさんのご指南が付いて来るのですね……ああ、経験値不足な己が憎い……!

……でも」

「でも?」

「これから何千回も、何万回だって貴女とこうしたい。

貴女の前で胸を張って、幸せにすると言えるようになるまで。

最高に素敵な夜を、貴女に贈ることが出来るようになるまで」






そしていつか切ない痛みが、とろける甘さに変わるまで。






SWEET PAIN,


It means LOVE,


I will give you Eternally.






-FIN-


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