SWEET PAIN
朝が近い。
目を閉じるとプラチナ色の夜明けが、夢と目覚めの境界線に降りて来る。
ちょっとぎこちない初めての腕枕でうとうと、目を開けてひそやかな愛の囁き、それから思い出したように時々キス。
触れ合わせた肌から伝わる温もり。
そして、傍らの彼が笑ってる。
なんだわたし、もうとっくにもらってた。
いちばん素敵で幸せな夜。
大好きな人と一緒にいること、それが世界でいちばんの幸せ。
永遠に忘れない幸せ。
「いい香り」
アリーナはクリフトの胸に顔を埋めて、うっとりと呟いた。
「お前の体、なんていい香りがするのかしら。
白檀の香り。教会のお香の香り。聖書の羊皮紙と燭台のろうそくの香り。
子供の頃からわたし、母鳥を追う雛みたいにいつもこの香りを追いかけてたの。
この香りの傍にいれば安心なんだ、なにも怖いことなんてないんだって。
でも王様になったから、もうこの香りもお前からはしなくなっちゃうのね」
「でも、代わりに貴女の香りがする」
クリフトはアリーナの額に口づけた。
「日向水の香り。風と太陽の香り。薔薇の香油の香り、庭園の花々の香り。
わたしは、貴女の香りがなによりも大好きです」
「ねえ、心臓の音がすごいわ。クリフト」
アリーナはクリフトの左胸に耳を押しあてた。
「こんなに速かったら、そのうち心臓がぱちんと割れちゃうんじゃないの?
なにをそんなにどきどきしてるの、お前?」
「それは、その」
クリフトは困ったように顔を赤らめた。
「貴きアリーナ様の伴侶たる者として、情けない話ですが……こんなふうに貴女様のお近くにいたら、どうしても冷静ではいられません」
「わたしとこうするのが嫌なの?」
「まさか。嫌なはずがありません。眩暈がしそうに嬉しいけれど、同時に震えるほど怖い。
……いや、怖いじゃないな。不安。そう、不安です」
クリフトはわずかに逡巡してから、言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。