SWEET PAIN
……で、仕切り直し。
手を取り合っていそいそとベッドに戻ったものの、「はい、では改めてひとつやってみましょうか」と号令をかけて始めるような事でもない。
おまけに東の空は白み、天窓から落ちてくる光はもうふたりの輪郭をほの明るく照らしている。
アリーナは断固として今から「幸せな夜」を迎えたいらしく、シーツの上に真っ直ぐ正座し、真剣なまなざしでこちらを見つめている。
クリフトは困り果てて、いとおしい新妻の柔らかな頬に手を伸ばしそっと触れた。
鳶色の瞳に浮かぶ真摯な光。
彼女の願いを叶えてあげたい。
素敵な夜にしてあげたい。
でも、もうほとんど朝だ。
それにこういうことはきっと、導火線に火をつけた爆薬みたいな強い衝動が必要なのだ。
なんて、決して偉そうに言える立場ではないが。
薄明かりに覗くアリーナ姫の目頭に、昨日からろくに寝ていない疲れの滲んだ紫色の隈を認めて、
クリフトはもはや男らしく決めるとかどうとかより、彼女をぐっすり眠らせてやりたいという思いでいっぱいになった。
じゃあどうすればこの状況で、わたしは姫様にいちばん素敵な幸せをプレゼントしてあげられるだろう?
「……アリーナ様」
「なあに」
「このまま一緒に、横になりましょう」
アリーナは目を見開いた。
「一緒に寝るの?ベッドに?」
「はい。わたしが右側で、アリーナ様が左に」
クリフトはベッドの右端に詰めて左側を開け、手を差し伸べて促した。
「姫様はこちらです」
「今からこうして、ふたりで眠るの?服はどうするの?せっかく脱いだのに」
「服……そうですね」
クリフトはしばらく考えてから言った。
「ではお風邪を召してはいけませんから、眠ってしまう前に身につけることにしましょう。
少しの間だけ、このままで」
「でもこのまま寝ちゃったら、わたしたちなんにも……」
不服そうに唇を尖らせたアリーナを引き寄せて、そっと横たわらせる。
傍らに同じように横になると、長い髪をかき分けて首の下に腕を差し入れ、折り返した手で小さな頭を抱く。
引きしまった鎖骨のくぼみと、逞しくなめらかな胸に頬を押され、アリーナの瞳がみるみる輝いた。
「素敵!腕枕ね」
「その……お体が痛くはありませんか?」
「全然よ。こうしていると、クリフトの心臓の音が聞こえるわ。
そうか、だからわたしは左側なのね」
アリーナは「嬉しい。ずっとこうしてみたかったの」と子供のようにはしゃいだ声を上げ、クリフトの体に両腕をぎゅっと巻き付けた。