SWEET PAIN


「……ね、クリフト」

アリーナの体がゆっくり前に倒れて、なにもつけていない胸と胸が重なる。

「早く嬉しくして。

わたしのこと、幸せにして」

まるで追いかけ合うように、不揃いに繰り返すふたつの鼓動。

跳ね上がった心臓が喉元できしみ、視界がぐらぐら揺れて、クリフトは気が遠くなった。

もういつ死んでも後悔しません、神様。

いや、むしろ今が人生で一番死にたくない時かも。

「好き、クリフト」

「ア、アリーナ様……」

背中に腕をぎこちなく回したが、それ以上の行動に移ることも出来ず、クリフトは体の上のアリーナをぎくしゃくと抱き締めたまま、鉛のようにこわばって硬直した。

(ど、ど……どうするんだ?

これからどうするんだ?どうすればいいんだ?)

マシュマロみたいにふわふわしたアリーナの体。

寄せた頬から甘い匂いが漂う。

恥を承知で正直に言って、あちこち触れてみたいところはある。

でも衝動より、もしも嫌がられたらという恐怖のほうが強くて、とても自分から動く事など出来ない。

「好きだよ、クリフト。

一生忘れられない、素敵な夜にして」

か細い囁き、押しつけられる鎖骨の硬さと長い髪のかぐわしい香り。

脈拍はフル稼働、破裂寸前の爆弾岩だ。

男らしく誠意をこめて、「忘れられない夜にします、わたしが」なんて凛々しく囁いてみたい。

でも、そのためにどう振る舞えばいいのか解らない。

朴念仁の自分は、愛情を的確に伝える技巧も、雰囲気を盛り上げる甘い台詞も、なにひとつ持っていないのだ。

あるのはただ、彼女が大好きだというまっさらな気持ちだけ。

心臓ごと体から取り出して、世界じゅうの皆に自慢したいくらい、無限にあふれ返る気持ちだけ。
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