SWEET PAIN
「……へ?」
「だから、なんにもしてないの!わたしたちまだ、なんにも」
アリーナは頬を膨らませて、悔しげに言った。
「お前は散々吐いてすっきりするだけしたら、そのまま倒れ込むように寝ちゃったのよ」
「なんだ、そうですか。
よ、よかった……」
クリフトはほうっと胸を撫で下ろしたが、
「よくなぁーーーい!」
アリーナが砲弾のように勢いよく羽根布団から飛び出して、クリフトの上にどすんと乗った。
「うわあああ!ひ、姫様、ふ、ふ、服を……」
「お前、情けないと思わないの?クリフト」
アリーナは両腕を組んで眉を吊り上げた。
「今夜は待ちに待った、わたしたちふたりの新婚初夜なのよ。
マーニャが言ってたの。今夜はこれまで過ごして来た中でいちばん男らしいクリフトを見られるはずよ、楽しみにしてなさいね、って。
酔いつぶれてげえげえ蛙みたいに呻くお前の、どこが男らしいのよ!」
「い、いちばん男らしいわたし……?」
マーニャさん、なんて余計なことを。
クリフトは青ざめた。
年季の入った職業片思いの自分に、そんな高いハードル、いったいどうやって飛び越えろと言うのだ。
というか駄目だ、この体勢からのアングルは精神衛生上非常に良くない……!
クリフトは硬く目をつぶって裸のアリーナから顔をそむけ、悲鳴のように叫んだ。
「と、とにかく、お願いです!どうかまず、そこをおどき下さい」
「やだ。……わたし、楽しみにしてたんだから」
「えっ」
クリフトは思わず目を開けてアリーナを見た。
「し、新婚初夜をですか?」
「だって、マーニャが言ってたの。
ふたりにとっていちばん素敵で、いちばん幸せで、いちばん嬉しい日になるはずだからって。
でもわたし、ちっとも嬉しくないわ。
クリフトは服を脱がせるのに手間どるかもしれないわねってマーニャが言ってたから、こうしてあらかじめ自分で全部脱いでおいたのに」
クリフトはぶっと吹いた。
「お、お気遣い、ありがとうございます」
「……だから、お願い」
剣呑に尖っていた声が、ふいにか細くなる。
「わたし、ずっと待ってたんだよ。
だから、早く嬉しくして。クリフト」