SWEET PAIN


「か、か、か……」

とっさに恐ろしいほどの素早さで羽根布団を持ち上げ、アリーナの体をクレープのようにぐるんと包む。

「か……風邪を引いたら、どうなさるんですかっ!」

だがそうすると、今度は自分の無防備な姿が思い切りあらわになってしまう。

クリフトは動転してベッドからまろび落ち、床に散乱していた衣服に気が付くと、なにがなんだかわからず引っ掴んで必死に体を隠した。

「お前、なにやってるの?」

「は、はいっ。申し訳……その、申し訳ありま……」

クリフトはアリーナの方を見ないように、反対側の壁に向かって頭をすりつけると平伏した。

「恐れ多くも貴きアリーナ様に不埒を働きまして、大変失礼致しました!

かくなる上はこのクリフト、死んでお詫び致します」

「死ななくていいし、不埒も働いてないわよ」

丸くなった布団のとぐろからひょこんと顔だけ出して、アリーナは不機嫌そうに言った。

「やっと目が覚めたのね。いったい何度起こしたと思ってるの?

言っておくけどお前が服を着ていないのは、自分のせいよ。

汚い話だけど、飲み過ぎたお前はベッドにたどり着いたとたん、噴水みたいにぷわーっと」

「な……ご、ご無礼を……」

「いいわよ。もう全部、きれいに片づけたから」

「そ、それでその……わ、わたしは、貴女様と」

クリフトの喉がごくんとわなないた。

なんて聞けばいいんだ?

致してしまいましたか?

馬鹿!馬鹿!最低だ!あんまり最低な聞き方だ!

ついに手を出してしまったのでしょうか?

これも違う、手を出したなんて、なんという品性のない言葉なんだ!

一線を越えたのでしょうか?

罪を犯したのでしょうか?

本懐を遂げたのでしょうか?

愛を交歓したのでしょうか?

(どれも違う!

っていうか、そんなこと聞けない……)

するとアリーナは冷たく据わった目で、クリフトを睨んだ。

「お前が聞きたいのはこれでしょ。

安心して。わたしたち、なーんにもしてないわ。キスひとつね」
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