SWEET PAIN
「寝ないで。
クリフト、起きてよ」
大丈夫、わたしはちゃんとここにいます。
だからもう少し、もう少しだけこのまま……。
「駄目よ、起きなさい!」
だが枕の上で心地良い夢に意識がたゆたうのを、拗ねた恋人の声はどうしても許さなかった。
それがその夜の目覚めの合図。
Why is it hard
to say what I want when I want?
Everytime I love,
but sometimes you love
Why does it hurt
to hear what you have to say?
couse I wil give you
「SWEET PAIN」
「ク、リ、フ、ト!起きてったら!」
「……は、はい。ろうも申しあけ……」
口を開いたが声帯はちっとも言うことを聞かず、ろれつが上手く回らない。
底辺の歪んだ意識の中、おかしいなと喉元に手をやったとたん、頭のてっぺんに刺すような痛みが走った。
鼻の奥から胡椒の効いた葡萄の酸っぱい味。
ようやく違和感がのろのろと頭をもたげる。
体の内側に浸みつくのは名残というにはまだ強すぎる、渋皮みたいな醸した酒の匂い。
でもなぜ?
(おめでとう、おめでとう!)
(新王、アリーナ王妃、おめでとう!)
歓声と嬌声が鼓膜の裏側を叩き、割れるような拍手が頭痛を喚起する。
夜明けまで続いた婚礼の祝宴は、羨望と嫉妬を肴に浴びるほど飲まされた酒杯の洗礼。
そうだった。
引きつるような痛みの中、思い出す。
ついに結婚したのだ。
世界中でいちばん愛しい、アリーナ姫と。
(もう死んでもいい。いや、絶対死にたくない。
夢なら醒めないでほしい。いや、夢であって欲しくない……)
繰り返す歓喜と畏れ、高揚と困惑。
だが結局は叫び出したいほど幸せで、追憶にうっとりと浸ろうとした瞬間、強烈な眩暈がクリフトを襲った。
(う……っ、気持ち悪……)
そういえば、宴の後の記憶がぶつりと途切れている。
よろめきながら、アリーナ姫に引きずられるようにして王族用の寝室にたどり着いたことまでは、かろうじて覚えているのだが。
寝室?
アリーナ姫と、寝室?
クリフトは恐る恐る自分の首から下を見た。
何も着ていない。
(な、な、何故、いつのまに……?!
まさか、まさかわたしは酔いの混乱に乗じてアリーナ様を?!
何も覚えてない、覚えてないぞ!なんてもったいない……いや、恐れ多い……!)
「ちょっとクリフト、起きなさいよ」
その時、可愛らしい怒鳴り声にクリフトははっと顔を上げた。
「!!!」
ぎゃっと叫んだのか、ぬぁっと呻いたのか、自分でもよく解らない。
ただ、目の前で膝を合わせて姿勢よく座っていたのはアリーナ姫で、
彼女はこれから水浴びする子供のように、気持ちいいくらいさっぱりと、何も身につけていなかった。