ドラクエ字書きさんに100のお題




15・あなたを殺させはしない


この世で一番嫌いな言葉だ。

もう二度と聞きたくない。

限りある命を生きていれば、一瞬先に何があるのか解らない。

俺も、たったいますぐに死んでしまうかもしれない。俺だけじゃない、あいつも。この瞬間だってそうだ。大地が揺れ、山が火を吹き、大きな天災が起こるかもしれない。ひとつきりの心臓が突然鼓動を止めるかもしれない。

でも、終わりは運命だと思いたい。辛気臭いことは考えたくねえけど、もしも俺が明日死んだとしても、それはあくまで自分の選んだ終着地点だったと信じたい。

そうなるべき道を予め選んで生まれて来たのだと。

人のたましいはあの世で綺麗に洗われ、幾度も輪廻転生を繰り返すのだという。だったら時には、敢えて波乱万丈な人生を選ぶこともあるだろう。あの世で神様と何を話し合ったのか、全然覚えちゃいないけど、たましいのハードルを上げるため。

平和で楽しい、なんの変哲もない嗚呼幸せでしたの人生ばかりじゃ、勉強にもならないもんな。俺とあいつのたましい、今回はずいぶんと勉強熱心だったんだ。

幸せ慣れしかけた俺の心に、あいつが喝を入れてくれた。痛すぎた。けど、なにより効いた。

あなたを殺させはしない。そんなこと、たぶん誰にも出来ない。人はガラスケースに閉じ込められた人形じゃない。光と風に体をさらして生きていけば、そこにはいつも剥き出しの死が隣り合わせにある。

でも、だからこそ思うんだ。やり直しが出来ない人生。時間は止められない。明日死ぬかもしれない。あいつも、俺も。当たり前のようで当たり前じゃないすべて。

あいつが教えてくれた。今あるものは必ず失われる。生きてることは嬉しくて楽しくて、時々苦しくて辛い。痛い時だってたくさんある。でも、こんなにも素晴らしい。

だから、もう二度と聞きたくない。二度と言わせない。あなたを殺させはしない、なんて。それよりも伝えなくちゃいけないことがある。あ、から始まる言葉なら。

ん、それを今、ぜひ聞きたい?聞きたいのなら、お前がまず口にしろ。ま、その点は俺も目下修行中だけどな。

言葉は鏡。伝えた分だけ同じ分量で自分に返って来る。

だから言葉にするんだ。勇気を出して言ってみるんだ。大切な相手に。いつも当たり前のように傍にいてくれる、お前のあいつに。この人生は一度きり、恥ずかしがってちゃ損だ。あ、から始まるその言葉。


「愛してる」


もしも俺がこの世からいなくなっても、音にして伝えた想いは永遠に誰かの心に残る。言葉は死んだりなんかしない。

そう、いつだって生きてるんだ。




-FIN-


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