邂逅のとき


説教くさい言葉なんて、大嫌い。

自己満足の偽善めいたおせっかいはやめて。

言おうかどうか一瞬迷って、やめた。

いつまでも反発するのも疲れるし、とあたしは自分に言い訳したが、本当はもう、そんなこと微塵も思っていなかったからだ。

「じゃあこれからおなかがすいて仕方ない時は、この草を食べるようにするわ。

これで少なくともあたしたち姉弟は、飢え死にする危機は免れたってわけね」

クリフトは肩をすくめた。

「確かに、体調を整えるためたまに口にするのはいいだろうけれど、日常的に食べるには少しきつすぎる味だね。

そうではなくて、こういうのはどうだろう」

地面に並べた瓶の中から、透明な液体の入った細長いものを手にし、コルクの蓋を開ける。

最初に取りだした楕円形の葉と長い根を、手で細かくちぎり、ミルフォイルの花と葉を入れた広口瓶の中に詰めて、上から慎重に液体を注いだ。

「これはごく普通の蒸留酒と水を、半々に割ったものだよ。

そしてこの根は、先ほど言った二十九植物のなかのひとつ、甘草だ。葉は同じく、現証拠。

葉が乾いているから今日は量を増やしておくが、通常は摘みたての植物1に対して、液2の割合でいい。

乾燥したものなら、1対5で。イーサ、覚えたかい」

「うん」

イーサは真剣な顔でうなずいた。

「摘みたてなら1対2、乾燥したものなら1対5だね」

「これを二週間保存する。そのあいだ毎日必ず、上下に十回よく振ること。

そして二週間経ったら、中の植物を濾して捨てる。葉は堆肥になるから、畑や花壇で十分だ。

液体の入った瓶は麻の布に包んで、日光を避けて清潔に保管するんだよ」

クリフトは几帳面な仕草で瓶に蓋をすると、両手で包むようにしてあたしに手渡した。

「出来あがった液体を、目利きの主人のいる道具屋に持って行ってごらん。

傷、毒、麻痺すべてをたちどころに治す、子供や動物も使える万能薬だ。

貨幣価値の高いエンドールなら、おそらく100ゴールド弱で売れるはずだろう」

「……ひ」

あたしは思わず絶句した。

「100ゴールド?!」

イーサが後を継いだ。

「そんなにあれば、ひと月は温かいごはんが食べられる!」

「気持ちはわかるが、全部を食事代につぎ込んではいけないよ」

クリフトは苦笑した。

「いいかい。そのお金を使って、今度はもっとたくさんの瓶を買うんだ。

蒸留酒を買う。麻の布を買う。草花を摘んで入れる籠を買う。

そしてまた作る。また売る。売れたらまた作る。

要領を覚えた君たちは、今度はもっとたくさんの、より優れた薬を作ることが出来る。

そうすればフィエサ、昨日君が言った通り、まるでミルフィーユのように少しずつ重なり増えていく。

ただし今度は、手に入れるものがだよ」

「そ……」

あたしはもつれそうになる舌を動かして、懸命に言おうとした。

「……そんな、うまい話が」

「もちろん、ただ売りに行けばうまくいくというわけではない。物事には、お膳立てというものが必要な時もある。

神の御心に委ねるだけでは、難しい事もあるのだと認めることは、非常に残念な話だけれど」

言葉とは裏腹に、クリフトは妙に楽しげに笑った。

「では次は、ものを売るための秘訣を君たちに教えよう。

稀代の商人、トルネコさん直伝のね」
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