星の奇跡


押しあてられた頬から伝わる、男の子の身体の燃えるような熱さ。

小さな頃はあんなにつめたかった手が、わたしの髪に差し入れられて、そこからも熱が染み渡る。

「……どうして?」

どうしてあなたが、ここにいるの?

とても聞きたかったけれど、言葉にならなかった。

痛みで唇が痺れていたから。

違う。

本当に聞きたいのは、そんなことじゃないような気がしたから。

「風呂から出たら、俺のナイフがなくなってた。

お前ももういなくて、母さんが様子が変だったって……、お前、最近ずっとおかしかったよな。

突然わけのわからないことを言うし、俺に会うと悲鳴を上げるし。

だから探したんだ。けどどこにもいなくて、そしたらさっきガラハド爺さんに会って、


お前……シンシア……どうして………」


ひどく取り乱しているらしく、緑の目の男の子の言葉は、まったく要領を得ていなかった。

わたしは弱々しく笑った。

「あなたが、そんなにおろおろするなんて」

「苦しくないか。すぐにホイミをかけるから、待ってろ」

「ホイミのかけら、でしょ」

「違う。完全に覚えたんだ。おれはもうホイミを使える」

男の子はわたしの額から顔を離すと、さっと掌をあてた。

出会ったあの頃と同じに、力を込めるように強いまなざしを注ぐと、あの頃とは違う低い声で聖句を呟く。

暗闇の中で、男の子の手が次第にぼうっと輝き始める。

指先からあふれる白金の光。

光はもやを描きながら輪の形になると、やがて霧のように溶けて、わたしの額に吸い込まれた。

焼けつく痛みと熱さが遠のき、目に映る光景が鮮明な形を取り始める。

「どうだ……?まだ、痛いか」

緑の目の男の子の美しい顔が、不安でならないように曇った。

「ううん、すっかり良くなったよ。ありがとう」

「急に動いたらだめだ。痛みは全部引いていないはずだ。

ホイミが治すのは<表層の傷一段>だ。減った血は元に戻らないし、傷もきれいには塞がらない」

「でももう頭も痛くないし、くらくらする目眩もなくなったよ」

「とにかく、まだ動くな」

男の子は深いため息をついた。

いつもあまり抑揚のない緑の目が、暗がりでもはっきりとわかる動揺を浮かべている。

言われた通りにじっとしていると、彼は唇を噛み、しばらく迷うように手を上下させていたが、やがてためらいながら腕を伸ばし、わたしをもう一度ぎゅっと抱きしめた。

「……ごめんな、シンシア」

耳元で悔しそうな呟きが洩れる。

「あんなに修業して、死ぬ気で稽古しても、俺に唱えられるのは所詮、その場しのぎのホイミひとつだけだ。

お前が痛がってるのに、俺にはなにもしてあげられない」

「もう、痛くないよ。全然へいきだよ」

「こんなこと、二度とやっちゃ駄目だ」

まるでうわごとのように、男の子は悲しげに呟いた。

「こんなこと……俺は、少しも嬉しくない。喜ばない。

お前が痛くて嬉しいことなんて、俺には絶対にない」

不思議だった。

男の子は少しも怒っていなかった。

むしろ悲しくて、悲しくてならない様子だった。

暗がりの中でわたしを抱きしめる体は、鍛えられてしなやかに硬く、あまりにきつく抱くと、わたしの体が痛むのではないかと気にしてくれているのだろう。

大きく回した腕が背中に触れるたび、さっきまでと違った痺れと熱が、みぞおちをつんと駆け抜けた。


「……お前が痛いと、俺も痛い」

緑の目をした男の子は低く呟いて、わたしのひたいにまた頬を押しあてた。
22/32ページ
スキ