星の奇跡
夢を見ていた。
眩しい黄金の太陽。
太陽の力を借りて、鏡のような銀色に光る月。
月の輝きは海の満ち引きを呼び、寄せては返す波が魚たちに命を与え、やがてこの世界じゅうを巡る長い長い旅をさせる。
(覚えていて、シンシア。太陽や月とこの世界は繋がっているの)
甘く煙るようなやさしい子守歌の合間に、母親がいつも語っていたこと。
(星がもたらす奇跡は、わたしたち地上に生きるものに限りない恩恵を与えてくれる。
この世界に昼と夜があるのも、大地にしっかりと足を着けて歩くことが出来るのも、全て太陽や月、星々の海が力を貸してくれているからなの。
わたしたちエルフは、星の奇跡を守るために生まれた者。
この世界に息づく命すべてに星の恵みが行き渡るよう、大地の番人として生きる者)
(でも、人間はわたしたちを嫌っているよ)
月見草の群れの上に身を丸め、眠りにとろとろと誘われながらわたしは尋ねた。
(だから怖い顔をして捕まえようとするし、わたしたちのことを化け物って呼ぶ。
お星様は人間に、お城や馬車やドレスやたくさんのものをあげたのに、わたしたちエルフのことは守ってくれないの)
(シンシア)
母親は困ったように微笑んだ。
(土から生まれて来たのではないものを手に入れて生きるのが、そんなに幸せなことかしら?
お城にいては空の輝きを目にすることは出来ないし、馬車の中で草の匂いを感じることは出来ないわ。
それに、お前にはドレスなんて必要ないの。大輪の薔薇の花は、ドレスを着てお洒落をしたいなんて決して思ったりしないでしょう?)
母の手が額を撫でる。
(わたしの愛しい小さな薔薇、シンシア)
花のような馥郁たる芳香が鼻孔に忍び込み、意識のふちが淡くにじんで、溶けて行く。
「いつかきっと、お前にも解るわ。星から授かったこの命を、世界のために役立てる時が必ずやって来ること。
その時が来たら、そうね、わたしが教えてあげましょう。
東から太陽が昇って、もう朝だから起きなさいってお前を起こす時みたいに、
さあ、今よって……」
うん、そうしてね。
おかあさん。
だってわたしにはまだわからないから。
人間から隠れ、太陽の下を堂々と走ることも出来ずに隠れて生きていくことの意味も、
遠い星の海が気まぐれに作ったこの世界のために、一体わたしたちが、なにを守らなければならないのかも。
だからまだ今は、解らないことは考えないようにするしか、怖いものは見ないように目を閉じていることしか、
(眠ることしか、出来ないの………)