ドラクエ字書きさんに100のお題
55・ザラキの成功率
「要はトリプルアクセルと同じだろ。他に出来る者がいない大技だが、失敗するリスクもかなり高い」
「お正月によくある肉体系のトライアル番組で、跳び箱の20段を飛べるかどうかと同じくらいの確率じゃないかしら」
「あー、あたしあれ見るの好き!勝負に挑む男たちの表情が凛々しくってさ、細マッチョもゴリマッチョもたまんないわー」
「いいえ、わたしはそれより恒例の格付けを見る方が楽しみです。うるわしのガクト様にはたして土がつく日は来るのか、毎年気になってたまりません」
「まったく、そなたらと来たら口を開けば俗な番組の話ばかり……。めでたき年越し、「ゆく年くる年」はちゃんと見たのか?スマホばかりいじくりおって、0時ちょうどにLINEする以外にやることはないのか」
「まあまあ、そんなことはどうでもいいから。お正月はもうとっくに終わったでしょ」
「拙者が思うに、サッカーでいうところのPKのようなものではないだろうか。かのコロンビアの英雄ハメス・ロドリゲスもこう言っていた。ペナルティキックは完全なる運だ、と」
「つまり、成功するか否かは本人の実力だけではないと言いたいのね」
「だからロベルト・バッジォだって94年のアメリカW杯決勝で失敗したのだ」
「ちょっとライアン。この場でサッカーの話題はあまりにわかりづらいわ。それに、例えが古すぎる」
「では、今の内閣の支持率と同じくらい、という例えではどうでしょう」
「さすがトルネコ。時事ネタをうまく取り入れておるな」
「低い割にはめげずにしつこく続ける、という意味でもピッタリだ」
「でも、一体どの程度の数字から低いと判断するのでしょうか?野球選手なんて三割打てば強打者ですわ。つまり三回に一回成功すれば御の字だということ」
「野球の成績はあくまで統計だもの。ぶっつけ本番の勝負でそんなこと言ってられないわよ」
「それにあいつ、三回に一回も成功してねーぞ」
「ちょっと!そんなにはっきり言っちゃダメ。彼が傷つくじゃないの」
「もしかすると、こっそりどこかで聞いてるかもしれぬしな」
「いや、それはないでしょう」
「だって、彼……今」
「棺桶の中だもの」
「いやあああ!クリフト!クリフト!嘘よ!嘘だと言って!クリフト――――!!!」
「アリーナさん……。お芝居が臭すぎますわ。最初から気づいていたでしょ。ていうか、ずっと棺桶の上に腰かけてらっしゃるじゃないですか……」
「あ、これ?妙に座り心地がよくて癒されると思ったら、やっぱりクリフトだったのね」
「とにかく、彼のいないうちにとりあえずの結論だけは出しておきましょうよ」
「ザラキの成功率は」
「はっきりしない」
「なんじゃ、それは!」
「つまりはじゃんけんみたいなもの、ということであろうか。その折々で価値が変わる。通用する時もあれば、そうではない時もある。勝ち負けが常に変動する」
「ずいぶん不安定ねー」
「まあな。だが、我々はその不安定さにはからずも魅了されてしまうのだろう。そも、人間が生きていて心血を注ぐものはすべからく不安定だ。
仕事の業績、恋愛の進行、旦那の給料、子供の成績、煮物の味。毎回違う」
「そんな呪文を必殺技とする彼を、これからも温かく見守ってあげよう、ということで」
「じゃあそろそろ彼を生き返してあげましょ。ミネア、ザオラルを」
「はい。………。
あ、あら?ごめんなさい。失敗してしまいましたわ」
「いいのよ、ミネア。落ちついて」
「す、すみません。今度こそ……。
おかしいですわね。また生き返りませんでした」
「ちょっと、クリフトったら。いつまでもそんな所に寝ていないで早く戻って来て!」
「ア、アリーナさん、棺桶をグーで殴るのは止めて下さい」
「しょうがねえな。今度はザオラルの成功率について討論してみるか」
「止めて!わたしまで槍玉に上げないで。い、いえ、クリフトさんだったらいいというわけではないんですよ。でも、わたしはあの方のようにイジられキャラではありませんし」
「要は、こんなふうに忌憚(きたん)なく話すことができるのも、クリフト殿の温和な人格あってこそ、ということだな」
「本人死んでるけど」
「それにしてもクリフトったら、 ザラキの成功率も低ければ、自らが生き返る確率も低いのねぇ」
―FIN―