ドラクエ字書きさんに100のお題
27・頑張って
うわああ、と耳をつんざくような大歓声。
両肩に背負った時間という概念が止まり、背中にちりちりと鳥肌が立つ。手足を包む空気がひどく熱く感じられるのは、抑えても抑えきれない高ぶりのせいだろうか。
サントハイムの王女アリーナは、闘技場の広場へと続く階段を見据えた。
大国エンドールで開かれた、格闘家の世界一決定戦とも言える武術大会。いよいよあそこを上がれば、喉から手が出るほど待ち望んだ戦いが待っている。クリフトやブライの手助けは一切ない、手加減なしの一対一の戦い。
どれほど夢に見ただろう?己れの力を試すこと。
名だたるつわものどもとの真っ向勝負の腕試し。
(さあ、行くわよ。自分自身でとくと確かめるのよ。
今のわたしの力が、果たしてどこまで通用するのか。まだまだ未熟なことはわかってる。それでも、戦いたいの。戦って知りたいの)
自分に何が足りないか。
それは転じて、自分にまだどれほど伸びしろがあるかを知ることでもある。努力して出来ないことなんてないのだから。たとえ今は無理でも、わたしにはきっと出来る。
そうなりたいと強く望み続ける限り。
階段へと踏み出した足が、わずかに震えていた。アリーナはくす、と笑った。
いやだな、まさか武者ぶるいなんてね、このわたしが。
いいわ、震えの止まらない足を天の向こうまで振り抜いて、誰にも負けない鋼鉄の蹴りをお見舞いしてあげる。
大歓声が湧きおこる広場へと飛びだす前に、ごく自然と後ろを振り返った。従者として祖国から共にやって来た若い神官と魔法使いの老人が、階段の下からこちらを見守っていた。
ふたりとも、黙ってほほえんでいる。そのことにアリーナは途方もない満足を覚えた。並ぶ四つの目に不安は少しも浮かんでいない。主人の勝利を心の底から信じている目だ。
さすが、わたしのお伴だわ。よくわかってるじゃない。
なにも言わなくても伝わって来る信頼。それが、戦いに出向く者をどれほど後押ししてくれるか。
「行って来るわね!」
アリーナは飛びだした。前を向く瞬間、こらえきれなくなったように神官の唇がかすかに動いた。
歓声にかき消えて聞こえなかったが、何を言ったのかはわかった。短くて、ありきたりな言葉。世界中の人間がこういう場面で口にするごくありふれた言葉だ。
(頑張って)
ええ、もちろんよ。
つま先で地面を蹴ると、砂嵐が円を描いて巻き上がった。おなかの底からわくわくする気持ちがこみ上げた。
今ならどんな相手にだって勝てる。無限に頑張れる。だってわたしは、ひとりじゃない。
戦いを挑む相手が、叫び声をあげて掴みかかって来た。アリーナは目にもとまらぬ速さで敵の攻撃をかわすと、鳥のように空中へ高く舞い上がった。
ぴんと伸ばしたつま先を、渾身の力を込めて振りおろす。勝利の予感が全身を駆けめぐる。
足の震えは、いつのまにか止まっていた。
―FIN―