絶対に負けられない戦いが、そこにはある(from2010)
ざわ、ざわ……(記者達のひそひそ話、漂う張りつめた緊張感)
「あっ、来ました!今来ました!勇者監督です。勇者監督です!」
パシャ、パシャ、パシャ!(フラッシュの嵐)
両腕を組んで入って来ると、神妙な顔で机の中央に陣取る監督。
「えー、いよいよ明日から開幕するドラクエⅣカップ、ラスボス戦メンバー四人を発表する」
しーん……(水を打ったような沈黙)
「まずはFWだ。攻撃的でありながら後陣メンバーとのバランス性も兼ね備えた、優れたリーダーシップを発揮する選手。
つまり、俺だ」
オオ……!!(どよめき)
「な、なんと勇者監督、しょっぱなからまさかの自分起用です!
これはヤクルト古田の「代打オレ」に続く、歴史に残る名言の誕生だ!
別室で固唾を飲んで見守っていたFCバドランドのライアン選手、ここでがっくりと肩を落とします!」
ライアンと中継が繋がるが、言葉もなく黙って俯くのみ。横で泣き崩れるホイミン。
「いかにベテランと言えども、やはり回復魔法が一切ないのはラスボス戦では痛い!
無回転の(?)天空のつるぎやギガデインなど、個人技に長けた勇者監督にはどうしても遅れをとってしまうのでしょうか。
その年齢からいっても、四年後の出場は厳しいでしょう。残念です、ライアン選手!
……あっ、続きです!」
「次はMFだ。俺が回復にまわることも出来るから、この位置の選手には守備より攻撃面を重視してもらいたい。
自分のHP残量に関わらず、敵に先んじて攻撃に入る瞬発力を持った選手を選んだ。
フィジカルが弱いのが玉にキズだが、そこは賢者の石という秘密兵器がある。走攻守、すべてにおいての活躍を非常に期待している」
カメラを構え直す記者たち。立ち込める静寂。
「サントハイムレッドダイヤモンズから、アリーナ」
オオーー!!(納得の歓声)
「やはりここで入って来ました、サントハイムの誇るなでしこ、攻撃的MFのおてんば姫アリーナ!
彼女もライアン選手同様、魔法を一切使えませんが、なにより武器となる持ち前の素早さとぶれない強さがあります!
あまりの圧倒的攻撃力ゆえ、リメイクではFC版に比べて会心の一撃の発動率が四分の三に抑えられているそうですが、
そのハンデをものともせず、盤石のメンバー入り!今大会もきっと大活躍してくれることでしょう!」
勇者監督、重々しく頷いて手元の書類に目を落とす。
「チームサントハイムからは以上。次は、ボランチだが」
「待って下さい!」
不意にどよめき。
扉を破り、会見室に乱入する長い帽子の男。
「な、なぜですか!どうしてわたしを選んで下さらないのですか!
これまで幾多の試練を切り抜け、共に戦って来たではありませんか!
ちゃんとお役に立って見せます。わたしには鉄壁のザオリクとべホマラー、それにスクルトが……!」
「駄目だ、お前はメンタルが弱い!クリフトアーノ・ロナウド!」
びしりと指差し、言い放つ勇者監督。
「いいか、死のグループと言われるこの戦いを乗り切るためには、まずチーム全員の心がひとつにならなければいけないんだ。
だがお前は直前の親善戦闘において、俺が敵にフリーの一撃を入れようとしたところ、
何度も「この位置は姫様でしょう。姫様にやらせて下さい」
「ここは姫様のキックですよ。蹴らせて下さい、姫様に」と戦闘中にも関わらずしつこく横槍を入れた!
そのせいで出発の直前でありながら、フ○ミ通編集部は面白おかしくメンバーの不和を書きたて、
挙句の果ては、俺とアリーナの対立報道まで流れてしまったんだぞ!
お前のようにチームの和を乱す奴は、どんなに強かろうとも必要ない。
ボス戦でもザキばっかり唱えやがって……昨今は「めいれいさせろ」システムが浸透したとはいえ、
二十年前の恨み、俺は今も忘れてないからな!」
「そ、そんな……」
両脇を警備員に抱えられ、連行される長帽子の男。
扉が閉まると同時に、記者がカメラに向かって沈痛に語る。
「戦いに赴く権利を得る者、残念ながら選ばれない者……。
明暗を分ける形となりましたが、これも勝負の世界。仕方ありませんね。
今は守備的MFとして名を馳せるあの選手も、かつてボス戦で仲間にどれほどの迷惑を掛けたかを鑑みると、
確かにこの選択も、やむを得ないのかもしれません」
「リメイク版のAIでもやはりザキを連発、回復魔法は誰よりアリーナ選手を最優先するそうですよ」
「人はそう簡単に変われないということでしょうか」
「静粛に!」
勇者監督、周囲をじろりと睨む。
「この場にいない者のことはどうでもいい。
続きだ。ボランチとDF、あとふたりを一気に行かせてもらう」
ざわ、ざわ……(記者、カメラを構える)
「ガンバコーミズより、占い師ミネア。踊り子マーニャ」
オオーー!!(ロールスクリーンに映る姉妹の写真。色めき立つ男性記者)
「アリーナと俺で確実な攻撃と回復が見込める今、必要なのはバイキルトでもなければ、スクルトでもない。
フバーハだ。ラスボス野郎の放つ吹雪や炎を防ぐには、ミネアのフバーハこそ必要不可欠なんだ。
マーニャはその合間を縫って、メラゾーマとイオナズン。今はDFも点を取る時代だからな。
だが、水の羽衣はちゃんと装備して行ってもらう。万が一のために時の砂もだ」
監督、満足げに立ち上がる。
「では以上。このメンバーで必ず勝つ。期待しててくれ」
「監督、質問!質問です!」
記者たちが一斉にマイクを向ける。
「ひとつ気になったのですが、あなた以外のメンバーは皆女性ですね。
まさかハーレム状態の中、唯一の男として活躍し、英雄の名を独占したいという腹づもりでは?」
「……」
監督、答えずにこの場を立ち去ろうとする。
「待って下さい、監督!答えて下さい!」
「図星なんですか?そうなんですか?」
「主人公でありながら男性メンバー最年少なのを、実は気にしていたという報道は事実ですか?」
「監督なのに人見知りが激しくて、指示がうまく出せないって本当ですか?」
「モンバーバラでぱふぱふするために、大慌てで馬車に戻ってひとりになったって本当ですか?」
「メダル838861枚のイカサマ賭博疑惑は晴れたんですか?」
「やかましい!」
勇者監督、突然竹刀を振り上げてばんと机を叩く。
「黙れ、黙れ!監督に口答えするな!
俺を怒らせると甲子園に行くことが出来なくなるぞ、上杉!」
「そ、それ監督違いですよ!!」
「うっ、目、目が……ちくしょう、明青学園野球部め……」
瞼を押さえながら、よろよろとこの場を立ち去る勇者監督。
その場に唖然と立ち尽くす記者たち。
誰かが呟いた。
「勝てるのかな……こんなんで。ラスボス……」
すると、誰かが明るく返した。
「大丈夫、何回でもやり直し効くしね。
ちゃんとセーブしてるから」
それでも戦いは一度きりで、誇り高き導かれしサムライ達は、絶対に負けられないのである。
-FIN-