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其の七 Listen to アリーナ




いち、に、さん。

構えて、引く。そして吸う。

跳んで吐く。着地してまた吸う。戻って吐く。

すべての武術の基本とは、呼吸法にあるの。

そういう意味では歌とも少し似ているんじゃないかしら?

ね、そこの詩人さん!

うふふ、こんにちは。

そんなに驚かないでよ。さっきからじいっとこっちばかり見て、このわたしが気づかないとでも思ってたの?

素敵な歌を作るため、みんなに話を聞いているんでしょう?

だったらどうして、わたしにも色々と質問してくれないのよ?

えっ、あなたは周囲のガードが堅いから駄目だ?

こうしている間も魔法使いの老人と長い帽子の神官が、いつやって来て邪魔をするかわからない?

……気を遣わせちゃってごめんなさいね。

あの人たちに決して悪気はないのよ。

ただ、いつまでたっても過保護体質が抜けきれないというか、心配するあまり、わたしの成長が子供のままで止まってると思い込んでるの。

切り傷ひとつこさえちゃ蒼白になって大騒ぎでべホマ、攻撃しようと拳を上げればそれじゃ駄目だとすかさずバイキルトよ。

全く、冗談じゃないわよね。

わたしだってもう一人前の武術家。

少なくとも素手の戦いであれば、天空の勇者と謳われるあいつにだって、そう簡単には負けやしないのに。

なんなら今あなたの前で、それを証明してみせましょうか?

待ってて、すぐ呼んでくるから。おーい!ねえ、ちょっと!今から手合わせを……、

え、今日のところはいい?

なによ、つまんないのね。

そんなに戦うことが好きなのか、ですって?

ええ、大好きよ!

大地が唸れば、拳を舞い上げずにはいられない。

風が叫べば身を閃かせずにはいられない。

地と共に草木が伸びるように、日と共に月が巡るように、わたしは武術と共にでなければ決して生きることは出来ないの。

わたし、思うの。きっとこの衝動は、生まれる前から血の中に組み込まれたものなんだって。

だからわたしはわたしである限り、これからも永遠に戦い続けるわ。

でもそれじゃ、何かと物騒なこともあるだろう?

そうね、確かにひどい傷を負うこともあるし、時に身動きできないほど苦しい毒や、麻痺の痛みを味わうこともあるわよ。

でもだいじょうぶ!

わたしの傷は必ず治るの。

いつでもどんな時でも、必ずわたしの傷は癒されるって保証があるから、どんなに痛くたって全然平気なのよ。

どうしてだって……そ、それはその……とにかく、治ると言ったら治るの!

ちゃんと解ってる。

わたしは守られている。

だれよりも強く深い心で、いつも守られている。

けれど、決してそれに甘んじたりはしないわ。

いつかきっと、わたしはわたしだけの力で、大地を踏みしめてみせる。

わたしだけの力で、世界のすべてを知り尽くす冒険の旅に出てみせる。

それにどうしてもついて行きたいっていうのなら、無理に止めはしないけれどね!

うん、ひとりそういうことを言いそうな心当たりがあるのよ。

なにものにも縛られない、わたしの仇名はおてんば姫。


愛と優しさに守られた幸福なおてんば姫、アリーナ。





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