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其の壱 Listen to マーニャ
はあーい。
こんにちは、元気?とってもいい天気よね。
歌を作るための取材なんですって?大変ねえ。いいのよ、今日は休息日で暇だから。
えっ、名前?名前をわざわざ名乗んなきゃいけないってわけなの?
いやーだ。
人に名前を問う前に、まず自分から名乗るのが礼儀ってもんでしょ。
ふむふむ、わかったわ。あんたの名前なかなか素敵よ。もう覚えたからね。
あたしはマーニャ。
名前を知らなくたって、顔くらいは見たことあるでしょ?
なんですって、全く知らない?あんた馬鹿じゃないの?!よほどのモグリなのね。
じゃあ世界一の歓楽街、モンバーバラに行ったことはある?
そう、ススキノ、シンジュクについで人々を魔のように惹きつけるという、あの魅惑の街よ。
夜は暗闇を忘れて極彩色の光と舞い、柔らかなベッドは眠りを拒むように恋人たちとのめくるめく饗宴を楽しむ。
猥雑でありながら豪奢、粗野でありながら絢爛、他にはない淫卑優美な文化を作り上げているこの街の流行最先端にいるのが、
誰あろうこのあたし、踊り子マーニャさんってわけなの。
え、いつ来れば舞台を見られるのかですって?
うーん、それはなんともいえないわ。なんたってあたしは今いろいろと忙しいの。
ずっと歌って踊って楽しく過ごせたら一番だと思うんだけど、どうやらそうも行かないみたいなのよね。
そう、あたし導かれし者ってやつだから。
誰に、なんのために、どこに導かれたんだって?
さあ。
そう言われてみると、改まって考えたことなんてなかったわねえ。
天空城に住むあのでっかい竜のおっさんにかしら?
それともむかつくけど、やっぱりあいつに。
ああ、あいつっていうのはあいつよ。
ここに来る前に、他のみんなにも話を聞いたんでしょ。その中にいたわ。
やたらと長い帽子をかぶった、蒼い目の優男?違うわ。ぴったり寄り添ってた長い巻き毛の女の子、それも違う。
わかった、ヒゲづらの男だろうって?
おあいにくさま、ヒゲは三人いるのよね。ごついのと丸いのと枯れてるのと。まあそのどれでもないんだけどさ。
あたしにそっくりの顔した、水晶玉を抱いたおとなしそうな娘?それミネアよ、あたしの妹。
あんた、わざと間違えてるわね!
わかったわよ、そんなに謝らなくてもいいわ。やあね、まるであたしがすごく短気な我儘者みたいじゃないの。
そう、御者席にえらそうに腕を組んで座ってた、女みたいな顔したあいつよ。
はあ、勇者のオーラが出すぎててダメ?あまりに神々しくて、声を掛けられなかった?
あんた、それでよく吟遊詩人を名乗れたもんね。
詩人たるもの、歌を作るためならその対象を微に入り細に入り調べ上げ、抜かりなく完璧に見知った上で、初めて人前で自信を持って吟じることが出来るっていうもんでしょうが。
とにかくあいつにも、あとで必ず声をかけなさい。
ああいう周囲に無関心ぶったやつに限って、実はものすごく気にしいだったりするんだから。
まだ会ったばかりの仲間の性格を、ずいぶんとわかってるじゃないかって?
あったりまえじゃない。頽廃の街モンバーバラで、酸いも甘いも噛みわけて生きてきたこのマーニャさんよ。
誰が何を考え、誰を想ってるのかなんて、ひとめみただけでピンときちゃうわ。
だいたいこの馬車に乗ってる人間は、自分の気持ちに嘘をついてるやつらが多いのよ。
そうね、ヒゲトリオ以外はみんな自分を騙して生きようとしてるわね。
あたし?あたしは関係ないわよ。
やれあいつが好きだ、でもあいつはこいつが好きだ、どうしよう、なんてめんどくさいだけだもの。
世の中の男はみんな、あたしのことが好き。
だからあたしもみんなのことが好き。
それでいいじゃない。
こんなつまんない話で、歌を作るのに少しでも役に立つことがあったかしら?
そう、よかったわ。
くれぐれも導かれし仲間たちの深紅の薔薇、艶なる舞い姫マーニャのことをメインに歌うのよ!いいわね!
そしたらいつかあんたの歌に乗せて、魂もとろけちゃうような魅惑のダンスを踊ってあげるわ。
ええ、いつかね。
いつかまた会えたら。
あんたの歌が心に響くなら、奏でる調べが胸を焦がすなら、あたしはいつでもどこからでも、あんたの所にやって来てあげる。
あんたに導かれてあげる。
そう、それがあたし。
孤高のジプシーの踊り子、マーニャ。
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