光の朝、そばで
(ねえ、わたしたちずうっとこのままでいられたらいいね……)
天使はまだ、この目で見たことなんてない。
でも気づけば、ずっとそばにいた。
小鳩のようなあどけない眼差し、花もほころぶ可憐な微笑み。
そんなふうにこれから先も、永遠に傍らにあると信じて疑わなかったものが、もしある瞬間、最も哀しいやり方で無残にも奪われてしまったとしたら。
(さよなら)
最後に見たのは、迷いのない透明な瞳だった。
泣き虫のくせに、こんな目をするんだ。
咲き乱れる花々の芳香に、嬉しそうに頬を紅潮させて微笑んだり、大きな蜂に追いかけられては、悲鳴を上げて自分の背中に隠れていたあの愛らしい瞳。
それが炎のような強い光に満ちて、自分と同じ姿へ変わり目の前から消えて行った時、この世界の全ては残酷な神の作り出した、脆くはかない夢だったのだと知った。
粉々に壊された使用済みの夢の中に、塵のように弾き落とされた空っぽの自分。
あの日心が死んだ。
世界が色を失い、音をなくした。
眠れなくなり、立っているだけで手足が震え、物を食べてもいっさい味を感じなくなった。
携えた剣で喉を突き、同じ所へ向かうことが出来たならと、何千回願ったか解らない。
だが神の下らない夢の中、ちっぽけな操り人形の役を押しつけられた自分には、糸で吊され、踊らなくてはならない役がまだ残されているらしい。
(お前は世界を救う勇者なんだ)
世界を救う?
救うべき世界なんて、もうどこにもない。
今ここにこうして自分が存在している事こそが、なにもかも失った最大の理由だというのに。
(苦しい)
呼吸する身体があることが。
血をたたえたこの命の温度が。
(助けて、シンシア)
(お願いだから、俺も連れて行って)
(父さん、母さん)
(みんな……!)