スパイシー・パーティー



えー、こほん、こほん。

……後ろ、聞こえてます?あ、そうですか。

皆様、本日は不肖クリフトのためにお集まり頂きまして、誠に有難うございます。

今日こうしてお話しする機会を与えて頂きましたのは、実はですね……。

え、子供?ち、違いますよ!まだ授かってはおりません。

勿論、神のお計らいがあればいつでもとは、考えていますけれども、こればかりはね。

なんですって!シンシアさんが?!

そ、そうかぁ……。では勇者様には、先を越されてしまったというわけなのですね。

おめでとうございます!心より、お喜びを申し上げます。

お二人の血を引いて、さぞかし美しく賢いお子がお生まれになることでしょう。

うーん、そうか。子供かぁ……。

ちっとも現実的に考えた事がなかったけれど、いつかは我がアリーナ様も、母親となる時がやって来るのですね。

お前も父親だろうって?そ、それは勿論そうですけど。

アリーナ様、お子様がお生まれになっても、ちゃんとわたしのことを構って下さるのかなぁ。

わーっ、待って下さい!話します話します!だから帰らないで!

実は今日お集まり頂いたのは、皆さんにご協力頂きたいからなんです。

今度の猫の月の第十二日、これ、何の日かお解りになりますか?

解らない?いけませんねぇ。ではヒントを。

この世で最も可憐な天使が舞い降りた、神に祝福されし日……はい、ミネアさん!どうぞ。

当たりです!さすがですね。

そう、アリーナ様のお誕生日。

皆さんこれでもう、わたしが何を言いたいのかお解りですね。

そうです、この導かれし仲間たち皆で、うんと盛大にお祝いさせて頂きましょう!

先に申し上げておきますがマーニャさん、お酒は駄目ですからね。

文句は受け付けません!マーニャさんには過去に酔って、大暴れした前科がありますから。

トルネコさん、会場で即席蚤の市を開くのもお断りさせて頂きます。

ライアンさん、勇者様をやたらと鍛えようとするのは止めて下さいね。もう戦いは終わったのですから。

え、ずいぶんと自分勝手な言い草だ?ど、どこがですか!

わたしはただ、アリーナ様に喜んで頂きたくて、大切な仲間である皆さんと共に、お祝いをと。

真の仲間なら色々と制約なんかつけず、自然体で楽しむべき?

そ、そういうものですか。ううむ、自然体、自然体……。

解りました。ではお酒は許可することに致しましょう。お祝いですからね。

喜びすぎですよ、マーニャさん!そのかわり三杯まで。三杯までですよ!

……聞いてないな。

トルネコさん、なにもお祝いの場所でまで商売をすることはないと、わたしは思うのですが。

めでたい席だからこそ、売れるものがある?宝石にドレス、し、しかし。

えっ、エンドール産の水晶入りロザリオが、たったの3000ゴールド?

……欲しいなぁ。

いやいや、わたしはお金を持っていませんから。倹約が一番です、はい。

サントハイムの国王ともなったのに、ずいぶんとみみっちいもんだなですって?

おっほん、勇者様ともあろうお方が、そのようなお考えはよくありませんね。

施政者たるもの、まずは我が身を律せねば、国の財政を取り締まる事など、到底出来は致しません。

そもそも真の平和とは、秩序ある倹約の元にあってこそ成り立つ……、あっ、ち、ちょっと!勇者様!お待ち下さい!

……行ってしまわれた。

ま、いいか。「余興は任せろ」とおっしゃって下さったし、きっといつものあれをやって下さるんだろう。

ピンゴ大会と、負けた者にはアストロン罰ゲーム。

面白いけれど、負けると鉄の固まりなのをいいことに、めちゃくちゃされてしまうから困るんだよなぁ。

両手両足を縛られてくすぐられたり、鼻の頭に虫をくっつけられたり、瞼に辛子をたっぷりと塗られたり。

そんな事を我が麗しいアリーナ様に、絶対にさせてなるものか。

……っていつも代わりにわたしが罰を受けるから、そのうちみんなにすべてを押しつけられてしまって、結局最後は、何故かわたしへの集中攻撃になってしまうんだ。

でもそうして、つかの間の休息を楽しむみんなの楽しそうな笑顔を見ると、まぁこのくらいはいいかなってつい思ってしまうんだけれども。

でも辛子はかぶれてしまう時もあるし、出来れば今度からは、量を少なめにしてもらわないと。

はっ。

あ、あれ、ミネアさんだけですか?他の皆さんは?

企画の趣旨はよく解ったから、もう帰るって?

そ、そうですか、いや、いいんですけど。

あ、ミネアさんももうお帰りですか。いえいえ、構わないですよ。

本日はご足労、どうもありがとうございました。お気をつけて。

……ふぅ。

なんだかみんな、そっけないなぁ……。

アリーナ様抜きとはいえ、皆でこうして集まったのは、とても久しぶりのことだというのに。

旅を終えて自分達の国に戻れば、それぞれ職業や生活様式も違い、運命のもとにあれほど深く育んだ友情も、やがて霧のように薄れてしまうものなのかな。

いやいや、そんなはずはない!

少なくともわたしの心には、いつだって導かれし仲間達の面影がある。

だからきっと、皆も同じだ!離れていても、互いの存在は空に浮かぶ太陽のように変わる事なく心を照らし温める、輝かしい光であるはずだ。

ね、神様。わたしはそう信じています。

……わっ、アリーナ様?!

い、い、いつからそこにいらっしゃったのですか?

え、ちょっと隣の部屋に来てくれって?は、はい、なんでしょう。

こちらは舞踏会や祝宴用の、第二広間ですが。

扉を開けろ?はぁ、では、失礼致します。


うわあぁっ!!


………。

……。

…。

な、な、な、な……。

こ、これは、一体どういう……。

み、皆さん、わたしは何も今日すぐにお祝いしましょうと言ったわけではな……、

え、よく思い出せ?

何をですか?

姫様のお誕生日のちょうどひと月前、竜の月の第五日は、何の日なんだって?

はて。

あ!誕生日。

……わ、わたしの……。

皆さぁん……。

ぐすっ。

ありがとうございます!!

やっぱりわたしの思いは、間違いじゃなかった!

大好きです、皆さん!勇者様にライアンさん、トルネコさんにブライ様、それからミネアさん、マーニャさんのことも、わたしは本当に大好きですよ!

わっ、アリーナ様、痛っ、痛い!そういう意味ではございません!

浮気者には罰を与える?!どどど、どうして?!

わっ、皆さん、止めて下さいっ!!

ち、ちょっと、わああぁ!

か、辛子、辛子は少なめにお願いしますーっ!

痛た、痛いっ!ひゃははは、くすぐったい!

み、皆さん、本当にありがとうございます!!

やっぱり皆さんは永遠に変わらない大切な、

仲間…………、


う、うわああぁ!


み、皆さん、どうか辛子は、


少なめに………。





……ありがとうございます、むぐ……。





-FIN-

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