本編
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「オレ、一年十組の流川楓っていうんだけど。アンタがバスケットをする姿がずっと好きだった」
昼休み、ざわめく教室内でやたら顔の整った見知らぬ男子生徒からそう告げられた赤木ひかるの口から「は?」という声が零れ落ち、頬張っていたおにぎりが手から転げ落ちた。
青天の霹靂にも程がある。告白というものは、このような人前でされるものなのか。それともこれは聞き間違いか。
「えーーと……流川クン、だっけ?………………今、何て?」
「ん?聞いてなかったのか?……赤木ひかるサン、アンタのことが好きだって言った」
引き攣る笑顔でひかるが聞き返せば淡々とながら二度目の好きをズバリと突きつけられて。その様に教室内が一気にどよめいてゆき、ひかるは顔を赤くして言葉を失った。
告白してきた本人――流川楓はというと……飄々とした無表情のままひかるの短い金の髪を見下ろしており、目を白黒させるひかるとは対照的だ。
そうして暫しの間が空いて……流川が「返事、急いでねーし。えーと……」と言いよどめばひかるはやっと我に返り――にっこり笑って流川へと言い放った。
「おーけー、わかった。アンタ――ちょっと表出ろ」
ひかるから向けられたそれは凍てつくような笑顔だったにも関わらず、流川は意図が掴めなかったのか「…………表?」と小首を傾げている。
「ここじゃ人多すぎて返事するにも問題大ありつってんの!言わなきゃわかんないのかよ!!」
「あー……ナルホド。それならちょうどいい場所がある、来て」
流川からむんずと手を掴まれたひかるの口から「っぎゃ!」とあられもない悲鳴が飛び出したが、流川は気にせずどこ吹く風で。そのままひかるを教室の外へと引っ張って行こうとした……のだが。
「〜〜!別に逃げねーしっ!手ぇ離せばか!!」
「あ、わりー」
その手は勢い良く振り払われてしまい、流川の口から簡素な謝罪が落とされた。
(何なんだ……何なんだこいつ!)
逃げないと言ったからには無視することもできず、先ゆく流川の大きな背を睨みつけながらひかるは教室を出て廊下を歩く。やたらと背の高いそいつの身長は190センチ近くあるのではなかろうか。
「………………。」
彼としては普通に歩いてるつもりなのだろうが、歩幅の大きい彼に合わせると身長148センチの小柄な自分では歩調の違いでせかせかと早歩きになってしまい、ひかるは少し顔を顰めた。
(…………バスケットをしているあたしが好きだった、か)
不意に苦いものが胸に湧き上がる。
告白を、言葉通りに受け止めるならば。バスケットをしていない自分に価値はあるのだろうか。
何となく、足が重い。――この告白は断ろう。ひかるは密かに決意した。
「ココなら邪魔入んねーだろ」と流川に連れてこられたのは体育館だった。重たい金属製の扉を流川が開けば独特の空気が微かに香る。
どこよりも嗅いできた、嗅ぎ慣れた匂いではあるが、今はこの場から離れたいとひかるは心底思う。それでもひかるは流川に続いてその場に足を踏み入れた。
二人きりの体育館はがらんどうとしていてやたらと静寂が目立つ。今から伝えることを思うと憂鬱になるが……ひかるは重たい口を何とか開いた。
「……あのさ。わざわざこんなとこまで連れて来てもらって悪いんだけど、」
「?」
「あたし、アンタとは付き合えない。……バスケット、もう辞めちゃったから」
告げるだけ告げてひかるは「じゃーね」と流川に背を向けて立ち去ろうとしたのだが。
「…………待てよ」
「ぎゃっ!」
……あろうことか頭を鷲掴みにされてそれは阻止されてしまった。
「何だよ!!まだ何かあるのかよ!!つーか頭掴むな!!」
思わず振り返ってしまったひかるは頭上の手を思いっきり叩き落としながら声を張り上げる。
すると、流川の真っ黒い瞳が真っ直ぐにひかるを射抜いてきた。
「アンタ、バスケットはまだ好きか?」
流川からの静かな問いかけが、棘のようにチクリと胸を刺す。
良く知りもしないコイツに、本音を零すつもりなどなかった。
なのに……震える唇は苦い思いを勝手に吐露してゆく。
「あたし……好きでバスケットを辞めたんじゃない」
目を伏せてひかるが呟きを落とせば、流川は「ふーん……、バスケット嫌いじゃねーんならヨカッタ」と言いながら学ランを脱ぎ、ワイシャツの袖を捲った。
「……辞めたのって、ケガか何かか?」
「あー…………うん。左膝」
「そっか」
…………成り行きとはいえ、なんで自身の怪我 の話をしなきゃいけないんだろう、とひかるは眉を潜める。
まるでかさぶたを剥がしたような心地だ。見せたくもない弱みを、他人 に零してしまうだなんて。
そんな中、流川は倉庫室からバスケットボールをひとつ持ち出すと器用に人差し指の上でそれをクルクルと回しながらひかるに語りかけた。
「――オレさ、アンタ自身が好きでまずは仲良くなりてーって思ってるからさ、」
「……?」
「だから――今は、オレのコト見てて」
瞬間――流川の鋭い目付きが更に鋭くなる。ドリブル。かなり速い。そして……体育館中にボールが弾む音が響いたかと思えば流川の身体がブワッと宙に浮いて――、
「!!」
――ガコォンと。ボールは勢い良くゴールへと叩きつけられ、金属製のリングが壊れるかという位にギシギシと軋んだ。
眼前で魅せつけられたダンクシュート は鮮烈な稲妻のようで。痛烈に網膜に焼き付いたそれの所為で心臓がやたらと早鐘を打つ。心なしか顔も熱い。
「……どうだった?」
「えっ」
くるっと振り向いてこちらを見つめてくる流川の顔に、ひかるの心臓がドキリと跳ねた。
落ち着けあたし……とひかるは呼吸を整えながら流川へと言葉を返す。
「どうって……………………えーと……ちょっと……びっくり……した、かな……」
「そっか」
口ごもるひかるの言葉に僅かながら流川の口角が緩んだ。
流川の脳裏に在りし日のひかるの姿が過ぎる。――神奈川のリトルスターと呼ばれた彼女は、小柄ながらもバスケットセンスは抜群で――コートの上の誰よりも輝いていたことを今も強烈に覚えている。
「まぁ……なんつーか。今のオレがいるの、アンタのおかげで……だから、アンタにも今のオレを見て欲しいっていうか……」
一生懸命思案しながら言葉を紡ぐ流川は「あー……上手く言えねーな」と無造作に頭を搔く。
「まぁ……とりあえず。損はさせねーし……まずはトモダチになってくんねーかな」
スッと差し出された手のひらにひかるは「ぐぬ、」と唸る。
――好き を遠ざけて諦めようと必死だったのに、コイツは。
「………………いーよ。〝トモダチ〟な」
差し出されたその手を完全には拒めずにひかるはペチッと流川の手を打ち鳴らした。――ナイスシュートの意味も込めて。
昼休み、ざわめく教室内でやたら顔の整った見知らぬ男子生徒からそう告げられた赤木ひかるの口から「は?」という声が零れ落ち、頬張っていたおにぎりが手から転げ落ちた。
青天の霹靂にも程がある。告白というものは、このような人前でされるものなのか。それともこれは聞き間違いか。
「えーーと……流川クン、だっけ?………………今、何て?」
「ん?聞いてなかったのか?……赤木ひかるサン、アンタのことが好きだって言った」
引き攣る笑顔でひかるが聞き返せば淡々とながら二度目の好きをズバリと突きつけられて。その様に教室内が一気にどよめいてゆき、ひかるは顔を赤くして言葉を失った。
告白してきた本人――流川楓はというと……飄々とした無表情のままひかるの短い金の髪を見下ろしており、目を白黒させるひかるとは対照的だ。
そうして暫しの間が空いて……流川が「返事、急いでねーし。えーと……」と言いよどめばひかるはやっと我に返り――にっこり笑って流川へと言い放った。
「おーけー、わかった。アンタ――ちょっと表出ろ」
ひかるから向けられたそれは凍てつくような笑顔だったにも関わらず、流川は意図が掴めなかったのか「…………表?」と小首を傾げている。
「ここじゃ人多すぎて返事するにも問題大ありつってんの!言わなきゃわかんないのかよ!!」
「あー……ナルホド。それならちょうどいい場所がある、来て」
流川からむんずと手を掴まれたひかるの口から「っぎゃ!」とあられもない悲鳴が飛び出したが、流川は気にせずどこ吹く風で。そのままひかるを教室の外へと引っ張って行こうとした……のだが。
「〜〜!別に逃げねーしっ!手ぇ離せばか!!」
「あ、わりー」
その手は勢い良く振り払われてしまい、流川の口から簡素な謝罪が落とされた。
(何なんだ……何なんだこいつ!)
逃げないと言ったからには無視することもできず、先ゆく流川の大きな背を睨みつけながらひかるは教室を出て廊下を歩く。やたらと背の高いそいつの身長は190センチ近くあるのではなかろうか。
「………………。」
彼としては普通に歩いてるつもりなのだろうが、歩幅の大きい彼に合わせると身長148センチの小柄な自分では歩調の違いでせかせかと早歩きになってしまい、ひかるは少し顔を顰めた。
(…………バスケットをしているあたしが好きだった、か)
不意に苦いものが胸に湧き上がる。
告白を、言葉通りに受け止めるならば。バスケットをしていない自分に価値はあるのだろうか。
何となく、足が重い。――この告白は断ろう。ひかるは密かに決意した。
「ココなら邪魔入んねーだろ」と流川に連れてこられたのは体育館だった。重たい金属製の扉を流川が開けば独特の空気が微かに香る。
どこよりも嗅いできた、嗅ぎ慣れた匂いではあるが、今はこの場から離れたいとひかるは心底思う。それでもひかるは流川に続いてその場に足を踏み入れた。
二人きりの体育館はがらんどうとしていてやたらと静寂が目立つ。今から伝えることを思うと憂鬱になるが……ひかるは重たい口を何とか開いた。
「……あのさ。わざわざこんなとこまで連れて来てもらって悪いんだけど、」
「?」
「あたし、アンタとは付き合えない。……バスケット、もう辞めちゃったから」
告げるだけ告げてひかるは「じゃーね」と流川に背を向けて立ち去ろうとしたのだが。
「…………待てよ」
「ぎゃっ!」
……あろうことか頭を鷲掴みにされてそれは阻止されてしまった。
「何だよ!!まだ何かあるのかよ!!つーか頭掴むな!!」
思わず振り返ってしまったひかるは頭上の手を思いっきり叩き落としながら声を張り上げる。
すると、流川の真っ黒い瞳が真っ直ぐにひかるを射抜いてきた。
「アンタ、バスケットはまだ好きか?」
流川からの静かな問いかけが、棘のようにチクリと胸を刺す。
良く知りもしないコイツに、本音を零すつもりなどなかった。
なのに……震える唇は苦い思いを勝手に吐露してゆく。
「あたし……好きでバスケットを辞めたんじゃない」
目を伏せてひかるが呟きを落とせば、流川は「ふーん……、バスケット嫌いじゃねーんならヨカッタ」と言いながら学ランを脱ぎ、ワイシャツの袖を捲った。
「……辞めたのって、ケガか何かか?」
「あー…………うん。左膝」
「そっか」
…………成り行きとはいえ、なんで自身の
まるでかさぶたを剥がしたような心地だ。見せたくもない弱みを、
そんな中、流川は倉庫室からバスケットボールをひとつ持ち出すと器用に人差し指の上でそれをクルクルと回しながらひかるに語りかけた。
「――オレさ、アンタ自身が好きでまずは仲良くなりてーって思ってるからさ、」
「……?」
「だから――今は、オレのコト見てて」
瞬間――流川の鋭い目付きが更に鋭くなる。ドリブル。かなり速い。そして……体育館中にボールが弾む音が響いたかと思えば流川の身体がブワッと宙に浮いて――、
「!!」
――ガコォンと。ボールは勢い良くゴールへと叩きつけられ、金属製のリングが壊れるかという位にギシギシと軋んだ。
眼前で魅せつけられた
「……どうだった?」
「えっ」
くるっと振り向いてこちらを見つめてくる流川の顔に、ひかるの心臓がドキリと跳ねた。
落ち着けあたし……とひかるは呼吸を整えながら流川へと言葉を返す。
「どうって……………………えーと……ちょっと……びっくり……した、かな……」
「そっか」
口ごもるひかるの言葉に僅かながら流川の口角が緩んだ。
流川の脳裏に在りし日のひかるの姿が過ぎる。――神奈川のリトルスターと呼ばれた彼女は、小柄ながらもバスケットセンスは抜群で――コートの上の誰よりも輝いていたことを今も強烈に覚えている。
「まぁ……なんつーか。今のオレがいるの、アンタのおかげで……だから、アンタにも今のオレを見て欲しいっていうか……」
一生懸命思案しながら言葉を紡ぐ流川は「あー……上手く言えねーな」と無造作に頭を搔く。
「まぁ……とりあえず。損はさせねーし……まずはトモダチになってくんねーかな」
スッと差し出された手のひらにひかるは「ぐぬ、」と唸る。
――
「………………いーよ。〝トモダチ〟な」
差し出されたその手を完全には拒めずにひかるはペチッと流川の手を打ち鳴らした。――ナイスシュートの意味も込めて。
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