本編
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(…………あん時、)
過去の詮索なんてシュミがワリーな、と流川は思えどそれが気になって仕方ない。ひかるに何があったというのだろう。
一つだけ、知っている変化はあった。髪の毛だ。彼女の髪は元々輝く金髪ではなかった。告白した時に初めてその色を見た時は似合ってんな、くらいにしか思わなかったが……それも何か関係しているのだろうか。
そうして悶々としたものを抱えながら校門をくぐろうとした流川の目に、見知った背中が映った。
……普段なら、きっとそんな行動は起こさなかった。けれど、その時は反射的に手が伸びた。
「…………水戸、」
「なんだ?流川のダンナじゃねーか」
「…………ひかるのことで、聞きてーことがある。時間……あるか?」
流川の真剣な顔に洋平は一瞬だけ目を丸くするも、すぐに人好きのする笑顔を浮かべ「何、いきなりどーしたよ」と流川の肩を叩いた。
駅前の喫茶店に移動して、アメリカンを二つ注文して。ややあって洋平が「――で、何を聞きたいって?」とコーヒーに砂糖を一つだけ入れて口を開く。
「……オレの知らねーひかるのことを聞きてぇ」
「ダンナの知らねーひかのこと?」
「オレが知ってんの、試合してる時のひかるのコトだけだから――髪、染めたのも高校で見て知ったし」
流川の言葉に洋平は何かを察し、「あぁ」と声を漏らした。
「髪はなァ……本人は『気分転換だ』っつってたけどな……」
「気分転換?」
「……あいつが髪染めたの、膝壊した直後なんだよ。……気持ちだけでも明るくしたかったんじゃねーかな」
何かと強がる兄妹分は、膝を壊した直後も恨み言は吐かず――けれど、その瞳にいつも翳りはあった。
「アイツ――弱音らしい弱音、なかなか吐かねぇんだよ」
「…………。」
「けど、あん時のひかはわかりやすく傷ついてたな。まー、当然だわな、あんだけ全力で打ち込んでたバスケットが急に出来なくなっちまったワケだし」
「そーいや、ひかるはなんで膝を壊したんだ?」
「おばさんが言うにはオーバーワークだとか何とか。アイツ、あの身長ってのもあってだいぶ無茶な練習してたみてーでな」
すげー努力家で、努力してテッペン目指してたのに、努力の所為で目指すべきものを失うなんて皮肉だよな……と洋平はコーヒーを啜る。
「……そんなひかがブチ切れたこともあったな。同じバスケ部員に『もう分不相応な夢見なくて済むんだから良かったじゃん』なんて言われたもんだから、アイツ……松葉杖でその部員に殴りかかってさ。羽交い締めにして止めんの、大変だったぜ」
「そりゃーオレでも切れる」
「あん時ひかが泣きながら呟いた『悔しい』って言葉が、アイツの唯一の本音じゃねぇかな」
「フーン……」
言いながら流川は少しぬるくなったコーヒーを煽った。
……ひかるが一番辛い時期に傍に居られなかった自分が歯痒い。それは、仕方のないことだけれども。
「……まぁ、なんつーか。あの時期のひかはちょっと荒れてたっつーか、荒んでたっつーか。でも……もう大丈夫じゃねーかな」
「何でだ?」
「ダンナ、気づいてねーかもだけど、アンタと出会ってからのひか、前みてーな雰囲気に戻ったっつーか……ちゃんと楽しそうにしてっからよ」
「そーか……」
コーヒーを飲み干してニッと笑う洋平に、流川の胸のつかえが取れた気がした。
過去、傍に居られなかったことはもうどうしようもない。けれど、今は見ているだけだった距離じゃない。
(……弱音を吐かねーなら、見逃さねーまでだ)
もっともっと、近づきたい。
彼女の強さも、弱さも、全部見透かせるくらい近くに。
過去の詮索なんてシュミがワリーな、と流川は思えどそれが気になって仕方ない。ひかるに何があったというのだろう。
一つだけ、知っている変化はあった。髪の毛だ。彼女の髪は元々輝く金髪ではなかった。告白した時に初めてその色を見た時は似合ってんな、くらいにしか思わなかったが……それも何か関係しているのだろうか。
そうして悶々としたものを抱えながら校門をくぐろうとした流川の目に、見知った背中が映った。
……普段なら、きっとそんな行動は起こさなかった。けれど、その時は反射的に手が伸びた。
「…………水戸、」
「なんだ?流川のダンナじゃねーか」
「…………ひかるのことで、聞きてーことがある。時間……あるか?」
流川の真剣な顔に洋平は一瞬だけ目を丸くするも、すぐに人好きのする笑顔を浮かべ「何、いきなりどーしたよ」と流川の肩を叩いた。
駅前の喫茶店に移動して、アメリカンを二つ注文して。ややあって洋平が「――で、何を聞きたいって?」とコーヒーに砂糖を一つだけ入れて口を開く。
「……オレの知らねーひかるのことを聞きてぇ」
「ダンナの知らねーひかのこと?」
「オレが知ってんの、試合してる時のひかるのコトだけだから――髪、染めたのも高校で見て知ったし」
流川の言葉に洋平は何かを察し、「あぁ」と声を漏らした。
「髪はなァ……本人は『気分転換だ』っつってたけどな……」
「気分転換?」
「……あいつが髪染めたの、膝壊した直後なんだよ。……気持ちだけでも明るくしたかったんじゃねーかな」
何かと強がる兄妹分は、膝を壊した直後も恨み言は吐かず――けれど、その瞳にいつも翳りはあった。
「アイツ――弱音らしい弱音、なかなか吐かねぇんだよ」
「…………。」
「けど、あん時のひかはわかりやすく傷ついてたな。まー、当然だわな、あんだけ全力で打ち込んでたバスケットが急に出来なくなっちまったワケだし」
「そーいや、ひかるはなんで膝を壊したんだ?」
「おばさんが言うにはオーバーワークだとか何とか。アイツ、あの身長ってのもあってだいぶ無茶な練習してたみてーでな」
すげー努力家で、努力してテッペン目指してたのに、努力の所為で目指すべきものを失うなんて皮肉だよな……と洋平はコーヒーを啜る。
「……そんなひかがブチ切れたこともあったな。同じバスケ部員に『もう分不相応な夢見なくて済むんだから良かったじゃん』なんて言われたもんだから、アイツ……松葉杖でその部員に殴りかかってさ。羽交い締めにして止めんの、大変だったぜ」
「そりゃーオレでも切れる」
「あん時ひかが泣きながら呟いた『悔しい』って言葉が、アイツの唯一の本音じゃねぇかな」
「フーン……」
言いながら流川は少しぬるくなったコーヒーを煽った。
……ひかるが一番辛い時期に傍に居られなかった自分が歯痒い。それは、仕方のないことだけれども。
「……まぁ、なんつーか。あの時期のひかはちょっと荒れてたっつーか、荒んでたっつーか。でも……もう大丈夫じゃねーかな」
「何でだ?」
「ダンナ、気づいてねーかもだけど、アンタと出会ってからのひか、前みてーな雰囲気に戻ったっつーか……ちゃんと楽しそうにしてっからよ」
「そーか……」
コーヒーを飲み干してニッと笑う洋平に、流川の胸のつかえが取れた気がした。
過去、傍に居られなかったことはもうどうしようもない。けれど、今は見ているだけだった距離じゃない。
(……弱音を吐かねーなら、見逃さねーまでだ)
もっともっと、近づきたい。
彼女の強さも、弱さも、全部見透かせるくらい近くに。