本編
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翌日――流川がひかるの教室に姿を表したのは昼休みになってからだった。どうやら相当疲れていたようで、休み時間もぶっ続けでずっと寝倒していたらしい。
「よぉ、昨日はお疲れ」
ひかるの言葉に「おー」と返しつつ流川がパンの袋をバサっと机に置けば「まーたパンだけかよ」とひかるに苦笑を落とされた。
「栄養考えろよなー、バスケットマン。なんならあたしがアンタの弁当作ってやろーか?」
「えっ。いーの」
「……金、とるけどな。材料費とかあるし。一人前も二人前も作る手間はそう変わんねーから、金とってもいいなら作るよ」
一食五百円な、とひかるが告げれば流川は間髪入れずに「買う」と応えた。契約成立である。ぶっちゃけ、好きな子のお弁当が五百円で買えるなんて無料に等しい。五百円以上の価値がある。
そんな中、横から「ひかー、オレにも弁当作ってくれよ」と花道が茶々を入れてきて。
「は?花道はやだよ、ぜってぇツケにすんじゃん」
「友人割引で無料ってことでここはひとつ!」
「ぶゎーか。つーか花道の場合頼む相手間違えてるんじゃねーんですかー」
「な……!晴子サンに頼むなんてそんな恐れ多い……!!」
「頼めねーなら諦めてとっとと学食いけよー」
シッシッとひかるが花道をあしらえば「言われなくても行くっつーの」と花道はあかんべしつつ教室を出て行った。
その光景を眺めていた流川は、あしらってる割にゃ目が優しいんだよな……と見えない何かが見えた気がしてひとつの疑問に辿り着く。
「なぁ。アンタ……もしかして、桜木のことが好きなのか?」
……その一言にひかるが「ぅぐっ」と食べてた肉団子を喉に詰まらせる。
「な……なんでそー思った」
「んー……何となく」
陵南での練習試合でだって、ひかるは「ユニフォーム似合ってんぞー!!」と花道には声を飛ばしていた。自分には声までは飛ばしてくれなかったのに。
ややあってひかるは深く息を吐くと目を伏せながら「正確に言うなら、好き〝だった〟だよ」と〝だった〟を強調して流川へと告げた。
「…………〝だった〟」
「うん。過去形。……フられてんだよ、あたし」
「…………。」
「今もダチとしては好きだし大事だけど、それ以上のキモチはないよ。もー吹っ切れてるし」
「……ホントかよ」
「ほんとだよ。うたぐりぶかいなー」
紙パックのいちごミルクを飲みながらひかるはあははと笑う。――実際、自分では吹っ切ったつもりだった。そうでなければ、晴子に花道を紹介なんてしていない。
だが……流川はどこか納得していない様子で眉間にシワを寄せる。ひかるはそんな流川へといたずらっ子の笑顔を作るとちょん、と人差し指で流川の眉間をつついた。
「……むくれるくらいなら、あたしのことをちゃんと惚れさせてみろよ」
「!……言ったな」
「へへへ」
感じつつあるドキドキに名前があることは知っている。
けれど――今はまだトモダチのままがいい。トモダチのままでいい。
「…………。」
放課後――流川は何となくモヤモヤとした気持ちを払拭できずにいた。今日は練習試合の翌日ともあって部活は休みだが、ひかるはバイトがあるとのことで放課後のデートには誘えなかった。
面白くねーな、と思いながら帰り支度を済ませて廊下を歩めば会いたくもない赤頭にかちあったので流川は「……おい、」とモヤモヤを直接花道にぶつけることにした。
「……おめーなんでひかるをフッたんだ」
藪から棒に吹っかけられて花道が「は?!」
と素っ頓狂な声を上げる。
「ひかるからフられたって聞いた。なんでだ」
「なんでおめーにそんなことこたえなきゃいけねーんだよ」
「こたえろ」
流川は花道の目をギッと睨みつける。
花道としてはいけ好かない流川の質問に応えるつもりはなかったのだが……このあと、晴子とバッシュを買いに行く約束があり、こんなことで時間を割きたくなかった。なので、「……アイツが本気じゃなかったからだよ」とぶっきらぼうに応えた。
「大事なダチだからこそ、テキトーにできねーだろ」
本気じゃなかったと花道は言うが――ひかるの向けていた気持ちがテキトーには思えなくて。流川が「おめーほんとにどあほうなんだな」と漏らせば花道は「あ゛ァ?!」と声を上げる。
「おめーはあん時のひかを知らねぇからそう言えるんだろうが!!」
「…………あん時」
花道の脳裏に蘇るのは中三の夏――膝を壊した直後のひかるの姿。
焦げ茶だった髪の毛を急に金色に染めた彼女の瞳は、どこか荒んでいた。
大体――告白だってちゃんとしたものじゃなかった。『――そんなに誰かと付き合いたいならさぁ、あたしはどーなの』なんて言い方をされて首を縦に振れば、築いた何かが壊れる気がした。
「これ以上オレがおめーにこたえる義理はねーからな……!オレはもー何も言わねーぞ!」
フン!と鼻息荒く花道は立ち去ってゆく。
…………自分の知らないひかるの過去。それが喉につかえた気がして流川は立ちすくんだ。
「よぉ、昨日はお疲れ」
ひかるの言葉に「おー」と返しつつ流川がパンの袋をバサっと机に置けば「まーたパンだけかよ」とひかるに苦笑を落とされた。
「栄養考えろよなー、バスケットマン。なんならあたしがアンタの弁当作ってやろーか?」
「えっ。いーの」
「……金、とるけどな。材料費とかあるし。一人前も二人前も作る手間はそう変わんねーから、金とってもいいなら作るよ」
一食五百円な、とひかるが告げれば流川は間髪入れずに「買う」と応えた。契約成立である。ぶっちゃけ、好きな子のお弁当が五百円で買えるなんて無料に等しい。五百円以上の価値がある。
そんな中、横から「ひかー、オレにも弁当作ってくれよ」と花道が茶々を入れてきて。
「は?花道はやだよ、ぜってぇツケにすんじゃん」
「友人割引で無料ってことでここはひとつ!」
「ぶゎーか。つーか花道の場合頼む相手間違えてるんじゃねーんですかー」
「な……!晴子サンに頼むなんてそんな恐れ多い……!!」
「頼めねーなら諦めてとっとと学食いけよー」
シッシッとひかるが花道をあしらえば「言われなくても行くっつーの」と花道はあかんべしつつ教室を出て行った。
その光景を眺めていた流川は、あしらってる割にゃ目が優しいんだよな……と見えない何かが見えた気がしてひとつの疑問に辿り着く。
「なぁ。アンタ……もしかして、桜木のことが好きなのか?」
……その一言にひかるが「ぅぐっ」と食べてた肉団子を喉に詰まらせる。
「な……なんでそー思った」
「んー……何となく」
陵南での練習試合でだって、ひかるは「ユニフォーム似合ってんぞー!!」と花道には声を飛ばしていた。自分には声までは飛ばしてくれなかったのに。
ややあってひかるは深く息を吐くと目を伏せながら「正確に言うなら、好き〝だった〟だよ」と〝だった〟を強調して流川へと告げた。
「…………〝だった〟」
「うん。過去形。……フられてんだよ、あたし」
「…………。」
「今もダチとしては好きだし大事だけど、それ以上のキモチはないよ。もー吹っ切れてるし」
「……ホントかよ」
「ほんとだよ。うたぐりぶかいなー」
紙パックのいちごミルクを飲みながらひかるはあははと笑う。――実際、自分では吹っ切ったつもりだった。そうでなければ、晴子に花道を紹介なんてしていない。
だが……流川はどこか納得していない様子で眉間にシワを寄せる。ひかるはそんな流川へといたずらっ子の笑顔を作るとちょん、と人差し指で流川の眉間をつついた。
「……むくれるくらいなら、あたしのことをちゃんと惚れさせてみろよ」
「!……言ったな」
「へへへ」
感じつつあるドキドキに名前があることは知っている。
けれど――今はまだトモダチのままがいい。トモダチのままでいい。
「…………。」
放課後――流川は何となくモヤモヤとした気持ちを払拭できずにいた。今日は練習試合の翌日ともあって部活は休みだが、ひかるはバイトがあるとのことで放課後のデートには誘えなかった。
面白くねーな、と思いながら帰り支度を済ませて廊下を歩めば会いたくもない赤頭にかちあったので流川は「……おい、」とモヤモヤを直接花道にぶつけることにした。
「……おめーなんでひかるをフッたんだ」
藪から棒に吹っかけられて花道が「は?!」
と素っ頓狂な声を上げる。
「ひかるからフられたって聞いた。なんでだ」
「なんでおめーにそんなことこたえなきゃいけねーんだよ」
「こたえろ」
流川は花道の目をギッと睨みつける。
花道としてはいけ好かない流川の質問に応えるつもりはなかったのだが……このあと、晴子とバッシュを買いに行く約束があり、こんなことで時間を割きたくなかった。なので、「……アイツが本気じゃなかったからだよ」とぶっきらぼうに応えた。
「大事なダチだからこそ、テキトーにできねーだろ」
本気じゃなかったと花道は言うが――ひかるの向けていた気持ちがテキトーには思えなくて。流川が「おめーほんとにどあほうなんだな」と漏らせば花道は「あ゛ァ?!」と声を上げる。
「おめーはあん時のひかを知らねぇからそう言えるんだろうが!!」
「…………あん時」
花道の脳裏に蘇るのは中三の夏――膝を壊した直後のひかるの姿。
焦げ茶だった髪の毛を急に金色に染めた彼女の瞳は、どこか荒んでいた。
大体――告白だってちゃんとしたものじゃなかった。『――そんなに誰かと付き合いたいならさぁ、あたしはどーなの』なんて言い方をされて首を縦に振れば、築いた何かが壊れる気がした。
「これ以上オレがおめーにこたえる義理はねーからな……!オレはもー何も言わねーぞ!」
フン!と鼻息荒く花道は立ち去ってゆく。
…………自分の知らないひかるの過去。それが喉につかえた気がして流川は立ちすくんだ。