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短編小説

タクシーの後部座席に二人。
家は反対方向なのに、あなたは乗り込んできて。
あっさり二人きりになった。
まだ遊びだと自分に嘘をついているあなた。
気がつかないフリはもう限界なんじゃないんですか?
僕はもう、あなたの本心に気がついてしまった。


とっくに渡してある合鍵で、遊佐さんが僕の家の扉をあける。
玄関には、当然のようにあなたのスリッパも出してある。
僕はまだ酔ったフリを続けながら、わざとらしく遊佐さんに寄りかかって歩いた。

「ほら、ちゃんと歩いて」
「ん~」

面倒見の良い遊佐さんは、甘えられるのも好きなようで。
お酒も強いし…
結構気が合うと思うんだよ。
しょっちゅう飲みにいく友達?
酔った勢いで抱いた事だってある。
それでも、ただの遊びだと、あなたはまた自分の心にフタをする。

分かってるんだ。
僕らは順番を間違えたって。

「ほら、着替えて。」

いつの間にか、目の前には着替えのシャツ。
この家の事はよく知っているのに、あなたはまだ自分の本心に気がつかない。
シャツに手を伸ばすふりをして、あなたの手を引いた。
思いの外あっさりと僕の方に倒れ込んで。
押し倒すように上から見るとあなたは我慢できないくらいに綺麗だ。

「嫌がらないんですね」
「ただの遊びだもの」

いつだってあなたは抵抗らしい抵抗をしてこない。
ただ、暗がりに紛れて幸せそうに笑う。




いつの間にか眠ってしまったようで。
遊佐さんの姿はない。
いつも朝早いあなたは、もしかしたらみうシャワーも済ませてしまったかもしれない。
カタンとキッチンから音がしたので、帰ってはいないようだ。
ベッドからでてキッチンをのぞくと、この前買っておいた紅茶を手に取る遊佐さんがいた。
あなたのために買ったんですよ。
紅茶、好きだって言ってたから。

「おはようございます」

背中を向いていてもわかるくらい、わかりやすく肩が跳ねた。
振り向いた目が、泳いで、僕の胸元に落ち着く。
乱れたままの髪、僕のシャツ。
引きつった笑顔で、まだ誤魔化すつもり?

「おはよう、シャワー借りるね」
「ねぇ、遊佐さんさぁ…そろそろ諦めたら?」

近づく僕の足元に視線を落として、うろたえる。
そんな顔したって、もうだめ。

「もう気がついてるくせに」

言ってしまった。
でも何故か笑みが溢れた。

もう都合よく抱いてあげるなんて嫌だった。
愛や恋なんて可愛い言葉では足りない気がする。

やっと顔をあげた遊佐さんが、ムっとして呟いた。
そして、僕はやっと彼を抱きしめた。
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